2019年6月7日、金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループが公表した報告書が、たちまち世間の注目を集めています。その内容は、老後の生活資金について、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦が年金以外に約2,000万円の金融資産を取り崩す必要がある」という衝撃的な試算を示したものでした。この「老後の30年間で2,000万円不足する」という表現は、多くの読者に老後の生活設計への強い不安と誤解を招く結果となってしまったようです。
こうした状況を受け、菅義偉官房長官は同日の記者会見で、金融庁の示した試算は「誤解や不安を招く表現で不適切だった」と異例の言及をされました。公的な機関が作成した報告書の内容について、内閣の重要閣僚が「不適切」とまで言い切るのは、非常に大きな反響の表れと言えるでしょう。SNS上でもこの話題は瞬く間に拡散され、「将来が不安だ」「年金だけでは暮らせないのか」といった、悲観的な声や怒りの声が相次いでいるのが現状です。
金融庁報告書が意図したものと、世間の受け止め方のギャップ
金融庁の報告書が意図したのは、公的年金制度の持続可能性を議論することではなく、あくまで現行の制度を前提とした上で、人生100年時代を見据えた個々人の資産形成の重要性を喚起することでした。しかし、「2,000万円不足」というセンセーショナルな数字が前面に出たことで、国民からは「国の年金制度が破綻しているのではないか」という受け止め方をされてしまったのです。公的機関の発表する資料は、その表現一つで人々の生活や意識に大きな影響を与えるため、より丁寧で慎重な言葉選びが必要だと私は考えます。
この事態を受けて、麻生太郎金融担当大臣も、報告書の表現が不適切であったことを認めました。大臣が直接、表現の不手際を認めたことは、読者の皆様が感じた不安や動揺がいかに大きかったかを物語っています。この報告書は、公的年金制度の限界を指摘するものではなく、あくまで「より豊かな老後を送るため」の目安として示されたものですから、その真意が伝わるように、説明の仕方を改善すべきでした。私たち国民は、こうした情報を鵜呑みにするのではなく、その背景や根拠をしっかりと理解する姿勢が求められるでしょう。