近年、米国の上場企業で導入が拡大している「複数議決権株」に対して、株主からの反発が急速に広がっています。これは、一握りの創業者や経営者に極端に強い発言権を与える仕組みであり、一般の株主が不利益を被るのではないかという危機感が背景にあるのです。この記事が制作された2019年6月上旬は、特にこの問題が大きな注目を集めている状況でした。
複数議決権株(Dual Class Stock)とは、株式の種類によって付与される議決権の数を変えている仕組みのことです。例えば、創業者が持つ株式には1株につき10票の議決権を与え、一般株主が持つ株式には1票のみ、あるいは議決権自体を与えないといった構造になっています。これによって、創業者は少ない出資比率でも、会社の経営方針を決定する上で圧倒的な支配力を確保できるようになるのです。
この仕組みは、2004年に当時のグーグル、現在のアルファベットが上場時に活用して以来、特に$\text{IT}(情報技術)企業を中心に導入が拡大しました。米国の全上場企業の約1割弱が採用しているとされますが、特に配車大手の∗リフト∗∗など、近年新規上場した企業での導入事例が増加しています。これに対し、投資家の間で「経営陣に都合の良い使い方」への懸念が高まり、反発の声が強まっているのです。∗83%もの人々が賛成票を投じました。議決権を多く持つ特別株を含めると賛成率は24%にとどまり、提案自体は否決されましたが、前年比で賛成率が∗が低下し、経営に対するチェック機能が弱体化することを懸念しているのです。\
増える導入企業とサンセット条項による妥協点
投資家の不満が高まる背景には、複数議決権株を導入する企業が増えているだけでなく、その「使い方」が創業者に有利になる傾向があることも挙げられます。例えば、2017年に上場した写真・動画共有アプリのスナップは、一般株主には無議決権株式のみを与え、創業者が議決権の9割を占めるという構造になっています。また、2019年3月に上場したリフトも、2名の創業者に1株あたり20票という極めて強い議決権を付与しました。
この流れは、各国の取引所にも波及しています。2018年には、香港取引所やシンガポール取引所が複数議決権株の導入を解禁しました。香港取引所は、かつて中国のアリババ集団を米国上場に奪われた苦い経験があり、制度の解禁によって有力な企業を呼び込みたいという狙いがあるのです。
このような状況を受け、議決権行使助言会社(ISSなど)も、複数議決権株の廃止を求める提案に賛成を推奨する動きを見せています。また、株価指数の算出会社も対応に乗り出しており、米$\text{S&P}ダウ・ジョーンズ・インデックスは2017年から、議決権を制限する企業を主要な指数に新たに組み入れない方針を打ち出しました。英\text{FTSE}ラッセルや米\text{MSCI}も同様に、対象から除外する動きが出ています。これらの指数から除外されることは、その企業への投資がしにくくなることを意味し、企業側にとって大きな影響があります。∗サンセット条項∗∗」の導入が増加しています。例えば、2018年に上場した\text{IT}企業の\text{EVO}ペイメンツは2021年、\text{Zuora}$は2028年を期限として、この条項を設定しています。サンセット条項は、創業者による初期のリーダーシップを確保しつつ、将来的に株主の権利を尊重するという、一つの合理的な解決策と言えるでしょう。
なお、日本の東京証券取引所でも2008年7月に制度が整備され、複数議決権株を持つ企業の上場は可能になりました。しかし、この記事の作成時点では、ロボットベンチャーのサイバーダインの1社にとどまっており、米国ほどは広がりを見せていないのが現状です。今後、米国での反発の広がりが、日本の市場や企業戦略にどのような影響を与えるのか、引き続き注目していく必要があるでしょう。