2019年6月8日時点の日本の株式市場は、米大統領の発言一つで大きく揺れ動くなど、主体性のない展開が続いています。しかし、その根底には、日本企業のガバナンス(統治)改革に大きな期待を寄せる、中長期的なテーマが静かに進行しているのです。その鍵を握るのが、これまで利益相反の構造が問題視されてきた**「上場子会社」**の存在でしょう。この親子上場の解消を見込んで、海外投資家が先回りする動きが今、非常に活発になっています。
象徴的な出来事として、2019年6月7日の東京株式市場では、日立ハイテクノロジーズに買い注文が殺到しました。親会社である日立製作所が「完全子会社化を検討している」という一部報道が飛び出したためです。少数株主から子会社の株式を買い取る際に、市場価格に上乗せされる金額、すなわちプレミアムへの期待感が急激に高まり、同社の株価は、値幅制限の上限であるストップ高を記録しました。また、この思惑買いは他社にも広がり、日立建機が3%高、日立金属が4%超の上昇、さらには東芝の子会社である東芝プラントシステムも3%高で取引を終えるなど、関連銘柄が一斉に買われる状況が生まれています。
実はこのような思惑買いは、以前から水面下で着実に進められていました。ゴールドマン・サックス証券の鈴木広美ストラテジストのもとには、最近、海外ヘッジファンドから「親子上場している日本企業のリストが欲しい」という要請が相次いでいるそうです。彼らはそのリストをもとに、「親会社を売り、子会社を買う」という投資戦略を立てています。実際に年初からの株価を比較してみると、主要な上場子会社の株価騰落率の平均は、親会社を約10ポイントも上回っており、その期待の大きさが数字に表れています。岡三証券の阿部健児氏も、親会社の豊富な手元資金や、子会社の時価総額が相対的に小さいといった基準で完全子会社化の候補銘柄を抽出したところ、その後、ミサワホームや図書印刷の完全子会社化が実際に発表されています。こうした成功事例もあり、「第二、第三の候補はどこか」という関心は一層高まっている状況です。
💡なぜ親子上場が問題視されるのか?政府・機関投資家の改革への動き
そもそも、親子上場とは、親会社とその子会社が共に株式を上場している状態を指します。この形態は、親会社と、子会社の少数株主との間で利益相反が生じやすい構造的な問題を抱えています。例えば、子会社の事業で得た利益を、親会社のために不当に低い価格で取引してしまうなど、子会社の少数株主の利益が蔑ろにされる懸念が常に指摘されてきたのです。さらに、親会社が経営権を握っているため、外部からのガバナンス(企業統治)が効きにくくなり、結果として利益剰余金を抱え込みがちで、株主への利益還元を示す総還元性向が低い傾向にあることも問題視されています。
ここにきて改めて上場子会社に焦点が当たった背景には、大手機関投資家や政府の具体的なアクションがあります。ニッセイアセットマネジメントの井口譲二・上席運用部長は、**「少数株主の利益が尊重される仕組みが必要不可欠だ」と強く訴えています。同社は、2019年からの株主総会シーズンにおいて、親会社がある場合、「取締役会の3分の1以上を独立社外取締役としない限り、経営トップ選任案に反対票を投じる」**という新しい方針に切り替えました。独立社外取締役とは、親会社や経営陣から独立した立場で、株主の利益を守る役割を担う役員のことです。三井住友トラスト・アセットマネジメントや三菱UFJ国際投信なども同様の姿勢を示しており、大口の投資家が改革の旗を振っていると言えるでしょう。
さらに政府も動いています。未来投資会議では、上場子会社のガバナンスに関する議論が進められています。ここでは、社外取締役の比率を「3分の1以上」または「過半数」とすることに加え、親会社に対して、**「親子上場が合理的である理由」**の開示を促す方針が打ち出されました。上場子会社の数は、日本の全上場企業の1割弱を占め、これは先進国の中でも突出して多い水準です。これらの解消が進めば、「日本の企業統治は発展途上だ」というネガティブなイメージを払拭する大きな一歩となることは間違いありません。
📈日本株市場のイメージを一新!海外投資家の期待
筆者の意見としては、このガバナンス改革は、長年燻ってきた日本市場の構造的な問題を是正する、まさに**「日本株の進化」に繋がるでしょう。企業統治の改善は、少数株主の利益保護に直結し、結果として企業の成長を促す資本効率の改善にも貢献するはずです。ゴールドマンの鈴木氏は、「年初から現物株を1.4兆円も売り越してきた海外投資家の日本株に対する印象もガラリと変わるはずだ」**と期待を寄せています。これまで日本株への投資に慎重だった海外勢も、こうした改革の進展を評価し、本格的な資金流入のきっかけとなる可能性を秘めているのです。
かつてのアベノミクス初期のような、日本発のポジティブな買い材料を市場に提供できるかどうか、日本企業のガバナンスは今、非常に重要な岐路に立たされていると言えるでしょう。この改革の波は、一部の投機的な動きだけでなく、日本市場全体の体質改善と評価向上に繋がる、持続可能なテーマとして注目に値します。