北海道の半導体産業、ラピダスを軸に成長なるか—ニューヨーク州の成功モデルを参考にした複合拠点構想

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2024年9月、北海道千歳市で進められている最先端半導体の製造拠点・ラピダスの工場建設が開始から1年を迎えました。2025年4月の試作ライン稼働に向けて工事は最盛期を迎えており、作業員は1日約3,600人にのぼり、10月には4,000人を超える見通しです。工場の建屋は10月ごろにはほぼ完成し、その後、半導体製造に不可欠なクリーンルームの整備が本格化。年末には製造装置の搬入が始まり、2025年1月以降は極端紫外線(EUV)露光装置の設置も進められる予定です。

この大規模なプロジェクトの成功には、単なる製造工場の建設だけでなく、関連企業の誘致や高度な人材育成といった「エコシステム(産業生態系)」の形成が不可欠です。北海道がそのお手本とするのが、アメリカ・ニューヨーク州オールバニにあるIBMの研究拠点を中心とした半導体複合施設「オールバニ・ナノテク・コンプレックス」です。同地には半導体製造装置や材料メーカーが集まり、300ミリウェハー対応の開発拠点としては全米最大規模を誇ります。

北海道の鈴木直道知事は2024年8月、道内経済界のトップらとともにニューヨーク州を訪問し、オールバニの最先端研究施設を視察。現地の経済開発公社や研究拠点「ニューヨーク・クリエイツ」と覚書(MOU)を交わし、今後の研究開発や人材育成で協力を進めることを確認しました。鈴木知事は「北海道における半導体産業の成長に向け、重要な一歩を踏み出した」と意気込みを語り、オールバニの成功モデルを参考にしながら、独自の産業拠点を築く考えを示しました。

オールバニでは、半導体関連企業が大学と連携し、最先端の製造設備を活用した研究やインターンシップの機会を提供することで、優秀な技術者の育成が進んでいます。日本貿易振興機構(JETRO)のリポートによると、ニューヨーク州では州知事が交代しても一貫して半導体産業を支援する政策が継続されており、行政主導で整備された基盤が産業界の投資を呼び込み、大規模なエコシステムを形成したと分析されています。

北海道でも産学官の連携が進んでおり、北海道大学はラピダスに加え、台湾の陽明交通大学や米レンセラー工科大学とも協力体制を構築。半導体人材育成に向けた組織も発足し、今後の成長に期待が高まっています。しかし、ニューヨーク州と北海道の財政規模には大きな差があり、同じ手法をそのまま適用するのは現実的ではありません。ニューヨーク州の年間予算が約29兆円に対し、北海道は約3兆円と大きな開きがあり、鈴木知事も「そのまま適用できるわけではない」と慎重な姿勢を示しています。

また、ラピダス自体も2027年に目標とする2ナノメートル半導体の量産に確実に成功できる保証はまだなく、地元企業の進出意欲も様子見の段階です。千歳市が国内半導体関連企業や取引先4,000社を対象に行ったアンケートでは、量産開始が確定するまで進出を検討しないとの回答が多く、「現時点では企業が慎重な姿勢を崩していない」(千歳市次世代半導体拠点推進室・森周一室長)との見方が示されています。

北海道がオールバニの半導体エコシステムから学びつつ、独自の産業基盤をどう築いていくかが今後の課題となります。ラピダスの工場建設が着実に進む一方で、行政、産業界、教育機関が一体となり、実効性のある支援策を早急に具体化することが求められるでしょう。

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