北海道当別町が「当別モデル」で人口減少対策—ドラッグストアと行政窓口を融合し、暮らしのインフラを支える新たな挑戦

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2024年9月、北海道当別町は、道内大手ドラッグストア「サツドラホールディングス(HD)」と連携し、地域の生活インフラを維持するための新たな取り組みをスタートしました。その象徴ともいえるのが、2024年7月にオープンした「サツドラ当別太美店」内に設置された西当別支所です。この支所では、住民票の発行や転出入手続きといった行政サービスを提供しながら、買い物の利便性も同時に向上させる仕組みとなっています。

当別町の太美地区は、JR札幌駅から列車で30~40分ほど北上した場所に位置し、北欧風の住宅が立ち並ぶ「スウェーデンヒルズ」などの住宅地が広がっています。2022年には小中一貫校「とうべつ学園」も開校し、子育て世帯の流入が進んでいる地域ですが、これまで生鮮食品を扱う大型小売店がなく、行政サービスの窓口も郵便局内の出張所のみという課題がありました。

この課題を解決するために誕生したのが、サツドラと当別町の官民連携による「当別モデル」です。サツドラにとって、同エリアは単独での出店が難しい地域でしたが、町が支所を併設することで、賃料収入を得られるメリットが生まれました。当別町は20年間で約2億6,100万円の賃料を支払い、出店用地の取得補助金や固定資産税の減免(2025年度から3年間)などの支援策も実施。その結果、町の試算によると、単独で支所を設置するよりも20年間で約8,800万円のコスト削減につながるとしています。

町と企業、住民の三者がメリットを享受できるこの取り組みについて、後藤正洋町長は「まさに三方よしのモデル」と評価。実際、支所を訪れた住民による「ついで買い」需要が売り上げを押し上げ、サツドラ側も「予算を達成できている」(大内秀伸執行役員)と好調なスタートを切りました。

全国的に人口減少が進む中、2023年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した推計では、2050年までに人口5,000人未満の市区町村が全国の3割弱を占める見通しです。こうした地域では、ドラッグストアすら維持が困難になると懸念されており、サツドラHDの富山浩樹社長も「人口5,000人以下の自治体では、商業施設の存続自体が厳しくなる」と指摘しています。

そこで重要となるのが、行政サービスと民間投資を組み合わせた持続可能な地域づくりです。当別町とサツドラの取り組みは、自治体が限られた予算を教育やインフラ整備に活用しつつ、民間企業の力を活かして住環境を充実させるモデルケースといえるでしょう。「当別モデル」は今後、全国の自治体に広がる可能性を秘めています。

地域密着型の店舗運営で持続可能性を高めるサツドラHDの挑戦

サツドラHDは、こうした官民連携の取り組みを積極的に進めており、2023年には当別町と包括連携協定を締結。プログラミング教育を提供する教室を運営するほか、地域経済を支える仕組みとして、同社のポイントカード「EZOCA(エゾカ)」の地域版を導入しました。

地域版EZOCAは、道内の江差町や小清水町でも展開されており、利用者が買い物をするたびに売上の0.2%が自治体に還元される仕組みです。さらに、江差町ではサツドラHDがデマンド交通(需要に応じた配車サービス)も運営し、高齢者や交通弱者の移動手段を支えています。

このように、単なる小売業の枠を超え、自治体と連携して地域密着型のサービスを展開することで、店舗の役割を多様化しながら持続可能性を高めているのがサツドラHDの戦略です。

人口減少と過疎化が進む中、地方自治体にとって行政サービスの維持は大きな課題です。サツドラHDのような民間企業と手を取り合うことで、新たな解決策を生み出す可能性が広がっています。当別町の事例が、全国の自治体にどのような影響を与えていくのか、今後の展開に注目が集まります。

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