宮城県が挑む次世代物産展──オンラインとリアルを融合させた新たな販売戦略

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宮城県は、新型コロナウイルスの影響で変化した消費行動に対応し、オンラインとリアルの融合を目指す新しい形の物産展を試行します。これは、東京・池袋にあるアンテナショップ「宮城ふるさとプラザ」が2025年2月をもって閉店することを受け、新たな販売促進策として打ち出されたものです。2024年度中に東京と大阪でそれぞれ5日間ずつ開催され、県産品の魅力を発信する場となります。

この新たな物産展は「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれる販売方式を採用し、会場に商品そのものを置かず、QRコードを活用してオンライン購入へ誘導する仕組みを導入します。来場者は商品サンプルを手に取り、試食や試用を行ったうえで、気に入ったものを後日購入できるようにQRコード付きのカードを受け取ることができます。

さらに、会場にはAIカメラを設置し、来場者の動向を分析するほか、アンケート調査を実施し、得られたデータを出品事業者へフィードバックすることで、今後の商品開発や販売戦略に活かす狙いがあります。

宮城県の村井嘉浩知事は2024年7月の定例会見で「アンテナショップの存在自体が十分に認知されていないのが現状であり、家賃や人件費を考慮すると、従来の形態だけでは限界がある。より効果的な方法を模索する必要がある」と語りました。

専門家の間でも、この新しい販売戦略にはさまざまな意見が交わされています。コロナ禍を経て、EC(電子商取引)が避けて通れない重要な販売手段となったことを踏まえ、「リアルとデジタルの融合が鍵になる」といった声がある一方、「食品はその場で購入し、持ち帰りたいという消費者のニーズが強い」という指摘もあります。そのため、OMO方式が本当に適しているのかは慎重な検討が必要とされています。

また、宮城県はスーパーやコンビニエンスストアに県産品コーナーを設置する案も検討しており、懇話会での議論を経て2024年秋ごろに最終的な方針をまとめる予定です。

2005年に開業した「宮城ふるさとプラザ」は、牛タンや笹かまぼこ、こけしといった特産品を販売し、2階には牛タン専門の飲食店も併設。観光情報の発信拠点としても機能してきました。2023年度の売上総額は5億3,000万円と好調でしたが、賃貸料が月1,000万円と高額であることから、県は2025年2月末の契約満了をもって更新しない決定を下しました。

しかし、この閉店により、一部の出展企業には大きな影響が及ぶことが懸念されています。ある水産加工会社の担当者は「池袋のアンテナショップがなくなると、年間売上が4割減る見込みだ。PRの機会が減るだけでなく、経営への打撃も大きい」と不安を隠せません。

こうした課題を受け、県は2023年1月から懇話会を立ち上げ、アンテナショップの存続や代替策としての販路拡大、情報発信の強化について議論を重ねてきました。

地域活性化センター(東京都中央区)の畠田千鶴氏は「アンテナショップは立地だけでは成功しない。ターゲットを明確にし、緻密なマーケティング戦略を立てることが必要だ。オンライン物産展ならではの特徴を打ち出し、独自性のある商品提案が成功のカギを握る」と分析しています。

宮城県の新たな試みは、今後の地方産品販売のモデルケースとして注目されるでしょう。オンラインとリアルを融合させたこの挑戦が、どのような成果を生むのか、引き続き注視していきたいところです。

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