2019年6月12日、米国の携帯電話業界を揺るがす重大なニュースが飛び込んできました。ソフトバンクグループ(SBG)傘下の米携帯通信第4位、スプリントと、同第3位のTモバイルUSによる巨大合併計画に対し、ニューヨーク州やカリフォルニア州など10の自治体が、合併の差し止めを求めて米裁判所に提訴したのです。この動きは、両社の掲げる次世代通信規格「5G」への大規模投資戦略にも影を落とす可能性があり、通信市場の競争環境に対する懸念が、いよいよ公の場で議論される段階に入ったことを示しています。
この訴訟の中心となっているのは、ニューヨーク州とカリフォルニア州です。これにコロラド、コネティカット、メリーランド、ミシガンなどの各州とコロンビア特別区が加わり、連合を組んで司法の判断を仰ぐことになりました。提訴に際し、ニューヨーク州のジェームズ司法長官は、「大手キャリアの統合は、携帯電話サービスの品質低下と利用料金の値上げに直結する」と強く主張しています。特に、低所得者層をはじめとする消費者を保護する観点から訴えを起こしたとしており、合併が実現すれば、両社の契約者にとって年間で45億ドル(当時のレートで約4800億円)以上の追加的な支出につながりかねないという具体的な試算も示されている状況です。
今回の州当局による提訴は、連邦政府の規制当局による審査にも影響を与える可能性があります。現在、米企業の合併・買収(M&A)は、主に競争法(独占禁止法)の観点から米司法省が主体となって審査を進めています。一方、通信行政を担う米連邦通信委員会(FCC)のパイ委員長は、5月にスプリントのプリペイド携帯事業の分離や地方での通信網整備などを条件として、既に合併を承認する意向を表明していました。しかし、今回の提訴を受けて、司法省が引き続き行っている審査の判断に、一定の影響が及ぶことが予測されるでしょう。米国の競争法に詳しい専門家からも、「差し止め訴訟を抱えたまま、企業が合併手続きを進めるのは困難であり、州当局の提訴が司法省の判断を左右する可能性もある」との見解が示されています。
このニュースが報じられた2019年6月11日の米株式市場では、スプリント株が前日比で6%安、Tモバイル株も2%下落して取引を終えました。市場は、この法廷闘争によって合併の実現が遠のき、あるいは長期化することへの警戒感を抱いていると見て間違いありません。合併の遅延は、両社が次世代通信規格である5Gへのインフラ投資を拡大するという戦略にも遅れを生じさせる懸念があります。特に、スプリントの親会社であるSBG(ソフトバンクグループ)にとっては、自社の財務状況やグローバルな投資戦略にも影響が及ぶ可能性があるため、予断を許さない状況が続くと考えられます。
🇺🇸通信業界の勢力図と消費者保護の視点
今回の提訴に対するSNSでの反響も大きく、「消費者にとって、選択肢の減少と料金の上昇は避けられない」という意見や、「競争環境が守られるなら歓迎すべき動きだ」といった低価格志向のユーザーからの賛同が多く見られました。一方で、「5G競争で米国が遅れをとるのではないか」「イノベーションが停滞してしまう」といった技術進化を重視する声も上がっており、意見は二分されています。私の見解としては、一時的な株価の下落や5G投資戦略への影響があったとしても、州当局が消費者の不利益を最優先に考え、市場の健全な競争を維持しようとする姿勢は、非常に重要であると考えます。特に、携帯電話サービスは生活インフラの一部となっており、競争が失われることで生じる料金の高止まりは、社会全体にとって大きな損失となるでしょう。
携帯電話市場では、合併が実現すれば、大手プレイヤーが4社から3社に減り、市場の寡占化が進みます。寡占とは、少数の企業によって市場が支配される状態を指す経済用語ですが、こうなると企業間で価格競争が起きにくくなり、結果として消費者は割高なサービスを受け入れざるを得なくなる危険性があります。州当局が、連邦政府の規制当局とは独立して、独自の権限で差し止めを求める訴訟を起こしたことは、地域に根差した住民の利益を守るという強い決意の表れです。この法廷闘争の結末が、今後の米国の競争政策と通信産業の未来に、大きな一石を投じることになるでしょう。