中小企業金融の担い手である商工組合中央金庫、通称「商工中金」が、2019年度より融資の判断基準を大きく転換し、その対象を全取引先に拡大する方針を打ち出しました。これまで一般的な金融機関が重視してきた、企業が保有する担保や保証人に過度に頼るのではなく、「事業の将来性」、つまりそのビジネスモデルが持つ成長力や収益性から融資の可否を判断する**「事業性評価」を本格的に導入するのです。この新たな取り組みは、民間金融機関との過熱する金利競争から一線を画し、成長の可能性を秘めた企業を的確に見極め、資金提供を通じて応援していくという強い決意の表れと言えるでしょう。
商工中金は2017年に、災害や経済の急変時に中小企業を支える「危機対応融資」という公的な役割を担う融資制度において、顧客のニーズとは無関係な低金利での貸し出しといった組織的な不正行為が発覚するという苦い経験をしました。これには、地域金融機関から「民業圧迫」、すなわち本来民間企業が担うべき経済活動を公的機関が不当に阻害しているという厳しい批判も招き、大きな問題となりました。この反省を踏まえ、商工中金は抜本的な業務の見直しを迫られていましたが、今回の「事業性評価」の全融資先への拡大こそが、その改革の核心であると強く感じます。
日本経済新聞によるインタビューに応じた関根正裕社長は、この業務見直しの進捗状況を具体的に示されました。商工中金は2018年度からこの事業性評価を本格的にスタートしており、初年度の対象融資先は全体の39%に留まっていました。しかし、2019年度にはこれを一気に全融資先へと拡大することで、企業の本質的な価値に着目した融資を徹底するとのことです。実際に、新規の長期貸出金利回りは2019年3月末までの半年平均で1.07%となっており、前年同期と比べて0.07ポイント上昇しているというデータも示されています。これは、リスクの見極めに手間をかける分、貸出金利を適正な水準に設定しやすくなるという、事業性評価がもたらす収益面でのメリットが表れ始めた証拠と捉えることができるでしょう。
事業性評価では、融資担当者に高度な「目利き力」、つまり企業の真の価値や将来の成長性を正確に見抜く能力が不可欠となります。これに対応するため、商工中金では全国の支店の融資担当者が審査の手法について頻繁に議論を重ね、事業のリスクや成長性を的確に判断できるスキルを磨いています。関根社長は、「単に融資をするだけでなく、企業の経営者の資質を見極め、抱える課題に対する具体的な解決策を提示できるような社員を育てていく」と語り、金融機関としての一歩踏み込んだコンサルティング機能の発揮を目指す考えを強調されました。
さらに商工中金は、地方が抱える深刻な課題を解決するために、2019年度から「融資」と「コンサルティング」を融合させた新たな取り組みに着手する方針です。例えば、地方の重要な産業である観光産業への新規参入**といった10の具体的なテーマを設定し、専門業者などの協力を得ながら解決策を構築し、それを全国の支店で展開していくとのことです。これは、単に資金を出すだけでなく、企業の成長をサポートし、ひいては地域経済の活性化に貢献するという、商工中金という公的性格を持つ金融機関の役割を再定義するものと言えるでしょう。
この商工中金の大きな方針転換は、SNS上でも「担保がない中小企業にとっては朗報だ」「真面目に頑張る企業が報われる良い流れ」といった好意的な意見が多く見受けられました。一方で、「事業性評価は本当に公平にできるのか?担当者の力量次第で結果が変わりそう」といった、評価の客観性や担当者の育成に対する懸念の声も上がっています。しかし、私はこの商工中金の挑戦は、日本経済を支える中小企業に対して、目先の経営状況ではなく、その企業が持つ「未来の可能性」に投資するという、非常に前向きで意義深いものであると評価しています。金融機関が真のコンサルタントへと変貌を遂げ、企業の成長を共に作り上げていく、そんな新しい金融のあり方を期待せずにはいられません。