2019年6月12日、LIXILグループの次期経営陣を巡る混乱や日産自動車におけるトップの不祥事など、日本企業の企業統治、すなわち「コーポレートガバナンス」が大きく揺らぎ、社会の注目を集めています。経営の監視と実行を明確に分ける「指名委員会等設置会社」の採用が増えているものの、その実態が形骸化しているのではないかという強い懸念があるのです。この日本のガバナンス問題の核心について、長年にわたり日本取締役協会の会長を務める宮内義彦氏(オリックス シニア・チェアマン)にお話を伺いました。
宮内氏は、現状のガバナンスの枠組みは、政府などからの要請に応える形で「とりあえずの形」を整えたに過ぎず、その中身が伴っていないと厳しく指摘しています。多くの企業が、形式的なルールである「ガバナンスコード」の基準をクリアしたことに安堵してしまい、本質的な改善への意欲が低いと見て取れるのが実情でしょう。一般的に、企業の最高責任者にとって、経営を厳しくチェックする「社外取締役」の存在は、疎ましい(わずらわしい)と感じられるのはごく自然な反応だとしています。しかし、世界中で資金が瞬時に移動する現代において、日本企業も経営の「透明性」をしっかりと確保しなければ生き残れないという強い危機感を示されました。
氏の見解では、日本企業のガバナンス改革は「中途半端」な状態にとどまっています。本来、市場がガバナンスに問題のある企業に対して強い圧力をかけ、改善を促す機能が働くことを期待していたものの、日本ではその市場の圧力が十分に効いていないと感じておられるようです。また、「機関投資家」、つまり顧客から預かった資産を運用する大口の投資家たちも、投資先の企業に対して積極的にガバナンスの改善を行使していない状況があるとのことです。さらに、社外取締役の側にも、その重責に対する勉強不足が見受けられるという厳しい意見も述べられています。
アメリカの巨大企業であるゼネラル・エレクトリック(GE)のように、経営者に問題があると判断すれば、社外取締役がトップを交代させる例があるように、米国では社外取締役は非常に重い責任を負うため、安易に引き受ける人が少ないほどです。これは、しっかりと経営を監督していないと株主から訴訟を起こされるリスクがあるためで、日本の企業に見られるような最高経営責任者(CEO)の友人や知人に社外取締役を依頼する「なれ合い」の関係は存在しないと断言しています。私は、ガバナンスの形だけを真似るのではなく、こうした取締役の「責任の重さ」を深く認識し、実効性を高めることが、日本企業に今最も求められていることだと考えます。
一方で、株主や投資家が「目先の利益」にばかり目が行きがちではないかという懸念もあります。特に製造業では、新製品の開発には長い時間が必要となる事情も理解できます。しかし、宮内氏はコーポレートガバナンスの真の目的は、企業を「中長期的にどう成長させるか」にあると強調しています。経営トップは、単なる業績報告に留まらず、自社の戦略をマーケットに対してもしっかりと説明する責任があるでしょう。
さらに、日本では現状では認められていないものの、中長期的に株式を保有している株主に対してより重い議決権を持たせるような仕組みがあれば、短期的な利益追求に偏ることなく、企業の持続的成長に資するのではないかという提案もされました。氏がこれまで多くの企業で社外取締役を歴任された経験から、その役割は「CEOの業績評価」と「後継者の育成や人選」にあると明言されています。執行側の見解や行動を時間をかけて観察し、もし同じ誤りを繰り返すようであれば、その経営者は役職を辞すべきであるという厳しい姿勢です。
経営への具体的な助言やアドバイスは、外部のコンサルタントなどに任せるべきであり、社外取締役は監督機能に専念すべきだというのが宮内氏の持論です。同氏は、日本におけるガバナンス改革は、まだ始まったばかりの「第2幕」に移行したばかりだという認識を示しました。
混迷するトップ人事と求められる市場の「圧力」
LIXILや日産のガバナンス問題が浮き彫りにしたのは、創業家や強力な実力者がトップにいる場合に、その「暴走の芽」をいかに摘み、防ぐかという共通の課題です。オーナーから経営を引き継いだ生え抜きの経営トップは、たとえCEOという地位にあっても、創業家などに対して意見を述べるのが難しいという「日本的経営」の難点があります。
聞き手である藤本氏も述べていますが、宮内氏が訴えるように、そうした企業にはマーケットがもっと強い圧力をかけるべきでしょう。幸い、日本でも「機関投資家」が、投資先の選定基準として「ESG」を考慮する動きが出始めています。ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取ったもので、特に「G」であるガバナンスの要素を重視して企業を選別する動きは、大きな変化と言えます。これまで「密室での取り決め」が多かった日本企業におけるトップ人事を含む経営のあり方は、まさに今、大きな転換期を迎えていると言えるでしょう。ソーシャルメディア上では、「結局、形式だけの導入だったということか」「実効性のない社外取締役に意味があるのか」といった厳しい意見が多く見られ、日本企業のガバナンスに対する関心の高さと不信感が同時に表れています。