診断薬メーカーのニッポンジーン(東京都千代田区)は、飲んでもお腹を壊しにくい「A2ミルク」を搾れる牛を判別する遺伝子検査キットを開発し、販売を開始しました。これまで国内の牧場では、A2ミルクを生産するための遺伝子検査を海外機関に依頼することが多く、時間とコストがかかるのが課題でした。ニッポンジーンのキットを活用すれば、国内で短時間のうちに検査が可能となり、A2ミルクの普及拡大が期待されます。
牛乳に含まれるたんぱく質「ベータカゼイン」には、遺伝子型によって「A1型」と「A2型」の2種類が存在します。A1型の牛乳は、一部の人にとっては消化が悪く、お腹の不調を引き起こすことがあります。日本国内で流通している牛乳の多くにはA1型が含まれており、A2型のみを含む「A2ミルク」はまだ一般的ではありません。
ニッポンジーンが開発した検査キットは、牛の体毛や血液からDNAを抽出し、専用の溶液と混ぜることで、A1型かA2型かを簡単に判別できる仕組みです。従来の方法では約10時間かかっていた検査が、わずか2時間で完了する点が大きな特徴です。この技術は、東京農業大学の庫本高志教授が経営に関わる検査会社「エージーティーシー」(静岡県浜松市)と共同開発しました。
A2ミルクを生産するためには、牧場で飼育している牛を全頭検査し、A2型の遺伝子を持つ牛を特定する必要があります。海外ではすでにオーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどで商品化が進んでおり、日本国内でも2020年頃から北海道の牧場で取り組みが始まり、2023年には大手スーパーのオーケーが販売を開始しました。
富山県の竹田牧場(富山市)は、A2ミルクを「地ミルク」としてブランド化し、付加価値の高い商品として販売する構想を進めています。これまでアメリカの検査会社に遺伝子検査を依頼していましたが、検査項目が多く、結果が届くまで約3週間かかるなど負担が大きかったといいます。ニッポンジーンのキットを利用すれば、コストを削減しながら迅速な検査が可能となり、実用性が高まると期待されています。
しかし、A2ミルクの商品化には課題も残ります。まず、一定量の出荷体制を整えなければならない点です。通常、乳業メーカーは複数の牧場から生乳を集めて加工工場で製品化しますが、A2ミルク専用のラインを設ける場合は設備の洗浄など追加の工程が発生するため、1つの牧場だけでは対応が難しいとされています。
もう一つの課題は価格です。A2ミルクは通常の牛乳に比べて1割程度割高となり、検査費用や生産コストが上乗せされるため、販売価格の設定が消費者の受け入れやすさに影響を及ぼします。さらに、現在はエサ代や燃料費の高騰により、牛乳価格そのものが上昇しているため、市場競争力をどう確保するかが鍵となります。
竹田牧場の竹田満裕代表は「A2ミルクがお腹に優しいという付加価値をしっかり消費者に伝えなければならない」と語ります。国内では、2020年に生産者らが設立した「日本A2ミルク協会」(北海道富良野市)が、A2型の遺伝子を持つ牛の登録制度を導入し、認証体制を整えつつあります。竹田牧場も乳業メーカーや流通パートナーを探し、2~3年後を目標に「A2地ミルク」としての販売を目指します。
SNSでは「A2ミルクがもっと手軽に買えるようになれば嬉しい」「国内で検査できるのは大きなメリット」「お腹が弱い人にとって救世主になりそう」といった期待の声が上がっています。今後、A2ミルクの市場がどこまで拡大するのか、注目が集まりそうです。