2019年6月12日付で発表されました豊田自動織機(以下、同社)の大規模な人事異動と機構改革は、同社の今後の事業戦略を占う上で非常に注目すべき動向と言えるでしょう。特に、技術・開発部門の強化と、トヨタL&Fカンパニーにおける組織再編は、同社が目指す「ものづくり」の進化と、グローバルでの競争力向上に対する強い意志を示すものと、私は捉えています。
まず、同社が技術・開発本部内に新たに「デジタルイノベーションプロジェクト」を新設した点は特筆に値します。このデジタルイノベーションとは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった最先端のデジタル技術を、製品開発や生産プロセスに組み込むことで、革新的な価値を生み出す取り組みを指します。飯森康司氏がデジタルイノベーションプロジェクトリーダーとR&D統括部長を兼務される体制は、研究開発(R&D)の知見とデジタル技術の融合を強力に推進されるものと期待されます。また、生技・生産本部に新設された「ダイエンジニアリングセンター」は、製品の基となる金型技術、すなわち「ダイ」に関する高度なエンジニアリング能力を集約・強化し、生産技術(生技)の更なる高度化を図るための拠点となるでしょう。
さらに、同社のトヨタL&Fカンパニー(産業車両や物流システムの事業部門)では、産業用コンポーネント事業室、企画管理部、そしてTMHG統括部という3つの部署を統合し、「総合企画部」として再出発されました。これは、物流関連の事業戦略をより一体的かつ迅速に策定し、実行するための組織スリム化・強化と見て取れます。TMHGとは「Toyota Material Handling Group」の略称で、同社のグローバルなフォークリフト・物流機器事業のブランドです。この物流事業のグローバル戦略を担う統括機能を、総合企画部の中核に位置づけることで、カンパニー全体の方向性を明確にする狙いがあると推察されます。
人事面では、多くの役職で重要な異動や、国内外のグループ会社への出向・転籍が発表されています。例えば、近藤雅人氏がトヨタインダストリーズノースアメリカ(北米のトヨタ産業機器事業会社)の社長から、国内の技術技能ラーニングセンター長にご就任されたことや、大岩昭宏氏がその北米事業会社の社長にご就任されたことは、グローバルで培われた経験や知見を、人材育成や新たな事業展開に活かすための戦略的なローテーションであると考えられます。また、海外グループ会社社長を経験された方々が、国内の重要ポストや、別部門の工場副工場長にご就任されるなど、人材の多角的な配置が見受けられます。これは、多様な環境での経験を持つ人材を登用することで、組織の活性化と技術力の底上げを図る同社の意欲の表れと言えるでしょう。
この豊田自動織機の人事・機構改革の発表後、SNS上では「新しい技術を取り込むための組織改編だ」「デジタルと生産技術の強化は、トヨタグループ全体の未来を担う取り組みだ」といった、同社の前向きな変化に期待する声が多く聞かれました。特に、デジタルイノベーションへの取り組みに対しては、自動車部品だけでなく、産業車両という分野での新しい価値創造に繋がるとして、技術系の関心層から大きな反響があったようです。
今回の動きは、同社が従来の「モノづくり」の強さに、デジタルの力とグローバルな視点を融合させ、次のステージへと進化しようとする変革期にあることを示唆していると私は感じています。この大規模な布陣の変更と組織の再編を通じて、豊田自動織機が今後どのような革新的な製品やソリューションを生み出していくのか、引き続き大きな注目が集まるでしょう。