今、MaaS(マース)という新しい移動の概念が注目を集めています。これは「Mobility as a Service」の略で、鉄道やバス、タクシーといった全ての交通手段をITで連携させ、スマートフォンなどのアプリ一つで検索、予約、決済までを一括して行うサービス体系を指します。このMaaSの一環として、福岡市でトヨタ自動車が開発したアプリ「マイ・ルート」の実証実験が進められており、その利便性が大きな期待を集めている状況です。
マイ・ルートの非常に魅力的な点の一つは、アプリ上での決済が部分的に可能になっていることです。例えば、西日本鉄道(西鉄)の路線バスで利用できるデジタルフリー乗車券がこれに該当します。事前にクレジットカードをアプリに登録しておけば、紙のチケットを購入する手間なく、アプリ内で乗車券の購入が完了します。乗車時と降車時に運転士へアプリ画面を見せて確認してもらう仕組みで、料金は600円で6時間乗り放題、900円で丸一日乗り放題という設定です。このデジタルフリー乗車券は、2019年4月末までに累計2,200枚を販売しており、スムーズな移動体験の普及に貢献していることが伺えます。
特に福岡市は、このアプリによる決済機能の拡大に大きな期待を寄せているようです。その背景には、増加し続けるインバウンド(訪日外国人客)への対応があります。2018年には九州を訪れた外国人の数が500万人を突破しましたが、数日程度の滞在では交通系のICカード(Suicaやnimocaなどの非接触型決済カード)を購入しない旅行者も少なくありません。これが、公共交通機関の利用を拡大させる上での大きな障壁となっていました。
福岡市住宅都市局の竹下和宏交通計画課長は、「決済がクレジットカードでできることによって、スムーズな乗り降りが実現するばかりか、鉄道などの利用促進にも繋がります」と述べており、利便性の向上を通じてインバウンドをさらに誘致したい考えがうかがえます。実際に、福岡市は2019年の年内にも、JR九州や西鉄と連携し、アプリと連動した決済手段に関する協議を始める予定であり、キャッシュレス化とMaaSを組み合わせた未来の交通システム構築への意欲が感じられます。
SNSでもこの動きには好意的な反響が見られます。「ICカードを持っていない訪日客には朗報」「アプリだけで全て完結するのはスマートで良い」といった意見が多く、特に手軽な決済手段の導入にポジティブな声が集中しています。私自身の考えですが、交通の利便性が向上することは、都市の魅力そのものを高めることにつながります。特に福岡のような国際的な玄関口において、アプリ決済は必須の機能になっていくことでしょう。
しかしながら、このマイ・ルートの実証実験は現時点では2019年8月末までの予定で進められています。開発元であるトヨタは、福岡での成功を足がかりに他地域への展開も視野に入れていますが、その実現は未定です。サービスを継続的に運営していく上で最大の課題となるのは、採算性の確保です。フィンランドのヘルシンキでMaaSアプリ「Whim(ウィム)」が定額料金制を取り入れているのに対し、マイ・ルートは実証実験という位置づけから現在は無料で提供されています。今後の収益モデル、すなわちサービスを維持・発展させていくための収入源をどのように確立するかが、今後の大きな焦点となるでしょう。