2019年6月9日の外国為替市場は、今後も円高・ドル安へと振れやすい展開が続くものと予想されます。その最大の背景となっているのが、日米の金利差の縮小です。直近では、米連邦準備理事会(FRB)が近いうちに利下げに踏み切るのではないかという観測が高まったことで、米国の金利が急速に低下(債券価格は上昇)しています。これに連動するように円相場も上昇し、一時1ドル=107円台と、約5カ月ぶりの高値をつける場面が見られました。
世界経済を揺るがす米中貿易摩擦の収束が依然として見通せない状況が続いており、これが世界景気の先行きに対する慎重な見方を広げ、投資家の間でリスク回避の動きが強まっています。その結果、安全な資産と見なされる円が買われやすい地合いが継続しているのです。SNS上でも、「このまま円高はどこまで進むのか」「ドル資産を持つのが怖い」といった、市場の不確実性に対する懸念の声が多く見受けられます。
国際通貨基金(IMF)は2019年6月5日、米中貿易摩擦がさらに激化した場合、2020年の世界の成長率が最大で0.5ポイントも押し下げられる可能性があるという試算を公表しました。世界の経済成長率が、好不況の分かれ目とされる3%を維持できるかどうかの瀬戸際に立たされています。こうした世界経済の減速懸念は、日本経済にも影を落としています。日本銀行(日銀)は、今年後半に世界経済が持ち直すことを前提に、国内の景気や物価が上向くシナリオを描いていましたが、ある幹部からは「不確実性が増し、想定の見直しが必要だ」との見解も漏れてきています。
世界が注目するFRBの動向:利下げ観測の行方
経済情勢の悪化を受け、現在、市場の関心は世界の金融政策の方向性を決定づけるFRBの対応に集まっています。FRBのパウエル議長が「景気拡大を維持するために適切に行動する」と発言したほか、複数の高官からも早期の利下げを示唆するような発言が相次ぎました。この結果、市場参加者の間で利下げへの期待が一層高まっています。米国の金利先物市場では、年内(2019年中)にFRBが利下げを実施する確率はほぼ100%に達しており、さらには複数回の利下げが行われるとの見方も台頭しています。
このような市場の動きを受け、米国の10年物国債利回りはわずか1カ月間で約0.5%も低下しました。これにより、ドルが売られ、円が買われるという流れが勢いを増しています。今後の外国為替市場の焦点は、米金利にこれ以上下げ余地があるのかどうかという点でしょう。市場では「すでに複数回の利下げは織り込まれている」という見方と、「さらなる利下げの可能性は否定できない」という見方が交錯している状況です。
長期金利の指標とされる10年物国債の利回りで見た場合、現時点での日米の金利差は約2.2%程度です。あるメガバンクの市場部門幹部は、「金利差が2%を下回ると、一段と円高が加速する可能性がある」と警戒感をあらわにしています。米国の金利低下が続くことで、日米金利差が縮小すれば、ドルを売って円を買うという動きがさらに強まり、円高傾向が長期化するかもしれません。
日銀のジレンマと今後の展望
世界的に投資マネーが安全資産とされる先進国の国債へと向かっているため、日本の長期金利も低下傾向にあります。日本の長期金利も、一時、2年10カ月ぶりの低い水準まで下がりました。これは「日銀の利下げを市場が織り込み始めている」と分析する声も出ています(SMBC日興証券の奥村任氏)。しかし、日銀には金融緩和の長期化による副作用にも配慮する必要があるため、安易に利下げに踏み切るという選択肢は取りにくいのが現状です。これは、金融機関の収益悪化や、国債市場の機能低下など、デメリットが無視できない水準にあるからです。
日銀が大規模な金融緩和策を続けている以上、日米の金利差が再び大きく拡大することは見込みにくいでしょう。このため、当面は世界の金融政策を左右するFRBの動向に、より一層、神経質にならざるを得ない状況が続く見通しです。日米の中央銀行はともに来週に金融政策決定会合の開催を控えており、そこで示される金融政策の方向性が、今後の外国為替市場のトレンドを決定づけることとなるでしょう。私は、米中貿易摩擦という世界的なリスク要因が払拭されない限り、リスク回避の円買いが優勢になる円高基調は避けられないと考えます。