2019年6月13日現在、世界のテクノロジー業界において、極めて注目すべきニュースが飛び込んでまいりました。中国の国策半導体メーカーである「長鑫存儲技術(CXMT)」が、年内にもDRAMの量産を開始する見通しが立ったというのです。昨年、米国の強烈な制裁によって別の国策企業の計画が頓挫したことは記憶に新しいですが、中国政府は悲願である「半導体の国産化」に向けて、決して歩みを止めていないことが浮き彫りとなりました。これは単なる企業の事業計画ではなく、国家の威信をかけた巨大プロジェクトと言えるでしょう。
そもそも今回話題となっている「DRAM(ディーラム)」とは何か、ご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。これは「Dynamic Random Access Memory」の略で、スマートフォンやサーバーなどでデータを一時的に記憶しておくための重要な半導体部品です。人間で例えるなら「短期記憶」を司る脳の一部のようなもので、電子機器の処理速度を左右する心臓部といっても過言ではありません。この市場規模はなんと10兆円にも上りますが、現状ではサムスン電子など海外勢がシェアの95%以上を握っています。
中国の習近平指導部は、2015年に発表した産業育成策「中国製造2025」の中で、半導体を重点産業に位置づけています。2018年時点でわずか15%程度だった自給率を、2025年には70%まで引き上げるという野心的な目標を掲げているのです。CXMTはこの計画の中核を担う企業の一つであり、総額約8700億円もの資金が投じられています。習主席が「半導体は人の心臓だ」と語ったように、この分野での自立は、中国が真のハイテク強国となるための絶対条件なのでしょう。
米国の包囲網と技術的課題
しかし、道のりは決して平坦ではありません。昨年秋には、同じくDRAMを手掛けるはずだった福建省晋華集成電路(JHICC)が、米政府からの制裁を受けて事実上の操業停止に追い込まれました。米国製の製造装置が使えなくなったことが致命傷となったのです。CXMTはこの失敗を教訓に、米国の知的財産権を侵害しないよう設計を抜本的に見直すなど、細心の注意を払ってプロジェクトを進めているようです。それでも、製造装置や設計ソフトの多くを米国企業に依存している現状に変わりはありません。
SNS上では、このニュースに対して様々な反響が見られます。「いよいよ中国製メモリが出てくるのか、価格破壊が起きそう」「サムスンの牙城を崩すのは容易ではないだろう」「結局、製造装置を止められたら終わるのでは?」といった、期待と懐疑が入り混じった声が多く挙がっています。特に、技術的に高度な微細化プロセス(回路線幅をナノメートル単位で細くする技術)において、歩留まりをどこまで高められるかが、今後の勝負の分かれ目となるでしょう。
私自身の見解としては、米中貿易摩擦が激化する中で、この動きは新たな火種になると感じています。トランプ政権がJHICCに対して行ったように、CXMTに対しても何らかのカードを切ってくる可能性は十分に考えられます。しかし、中国の潤沢な資金力と「やり遂げる」という国家意志の強さを侮ることはできません。もしCXMTが量産を軌道に乗せることができれば、世界の半導体地図は大きく書き換えられることになるはずです。私たちは今、歴史的な転換点を目撃しているのかもしれません。