2019年6月13日、東京・駒沢体育館で開幕したレスリングの全日本選抜選手権は、早くもとてつもない大波乱の幕開けとなりました。この大会は、9月にカザフスタンで開催される世界選手権の代表選考会も兼ねる、非常に重要な一戦です。初日に行われた男女計12階級の中でも、最も熱い視線を集めたのは女子76キロ級でしょう。ここで、彗星のごとく現れた17歳の高校生が、世界のトップランカーを打ち破る「ジャイアントキリング」を達成したのです。
その主役となったのは、東京・帝京高校に在籍する鏡優翔(かがみ ゆうか)選手。彼女が初日の1次リーグA組で対戦したのは、昨年の世界選手権で銅メダルを獲得した実績を持つ、日本の第一人者・皆川博恵(みなかわ ひろえ)選手(クリナップ)でした。世界大会でのメダル獲得は、その階級における国際的な実力の証。つまり、皆川選手はまさに「世界のトップ3」という圧倒的な強者だったわけです。しかし、鏡選手はこの皆川選手から堂々と勝利を奪い取るという、歴史的な一戦を演じきりました。さらにその後も連勝を飾り、見事に同組1位として2019年6月14日の準決勝へと駒を進めています。この「カガミ・ショック」とも言うべき快挙は、レスリング界に新たなスターが誕生したことを告げる号砲でしょう。
もちろん、皆川選手もさすがの強さを見せ、A組2位としてしっかり準決勝進出を決めています。しかし、17歳の高校生が世界トップの実力者を倒したという事実は、SNS上でも瞬く間に拡散され、「鏡選手すごすぎる!」「このまま世界代表になっちゃうのでは?」「若手の勢いがすごい!」といった、興奮と驚嘆の声が多数寄せられました。この若い力が日本のレスリング界全体に与える影響は計り知れません。
男子フリースタイルでは、86キロ級で高谷惣亮(たかたに そうすけ)選手(ALSOK)が、安定感のある試合運びで2連勝を果たし、危なげなく決勝進出を決めました。一方、97キロ級では、本来は92キロ級で昨年の世界選手権銅メダルという実績を持つ松本篤史(まつもと あつし)選手(警視庁)が準決勝で敗退するという波乱もあり、この全日本選抜選手権がどれほど熾烈な戦いの場であるかを物語っています。松本選手は、世界の舞台でメダルを獲得する「強豪」と呼べる存在でしたが、レスリングのトップレベルでの戦いにおいては、わずかな隙が命取りになることが改めて示されました。
この全日本選抜選手権は、オリンピックで実施される階級において、昨年の全日本選手権の覇者が続けて優勝した場合、その場で世界選手権代表に決定するというルールが適用されます。しかし、今回の鏡選手のように、昨年の覇者とは異なる選手が優勝した場合には、2019年7月6日に改めてプレーオフが行われることになります。今回の鏡選手の快進撃は、代表選考の行方をさらに面白く、そして予測不可能にしてくれました。この大会が、日本のレスリングの「世代交代」を象徴するターニングポイントとなる可能性を秘めていると私は考えます。鏡選手がこのまま勝ち上がり、世界への扉をこじ開けるのか。今後の展開から、目が離せません。