人口減少と少子化の波を受け、全国で増え続ける廃校の建物が今、地域に新たな賑わいと雇用を生み出す魅力的な施設へと生まれ変わっています。過疎化が進む地域において、自治体や住民が主体となって積極的に民間企業を誘致し、地域活性化の重要な一役を担うケースが目立っているのです。文部科学省の調査によると、2017年度までの15年間に廃校となり施設が残る公立の小中高校は6,580校に上りますが、そのうち約75%がすでに別施設として活用されており、これは2007年度から比較して12ポイントも増加しています。廃校活用はもはや珍しい取り組みではなく、地方創生における重要な流れになっていると言えるでしょう。
特に注目を集めているのが、長崎県五島市で2018年秋にオープンした「ノルディスクヴィレッジ五島アイランズ」です。2011年に廃校となった旧田尾小学校の広大な芝生の校庭には、スタイリッシュなテントが立ち並び、学校というどこか懐かしい空間で豪華なキャンプを楽しむ「グランピング」の施設として人気を博しています。訪れた観光客からは「学校でキャンプをするなんて、子どもの頃を思い出すような不思議で楽しい感覚」といった声が上がり、2019年5月の連休中には、10棟のテントは全て満室になるほどの盛況ぶりでした。
この再生プロジェクトを主導したのは、地域にUターンした若者や魅力を感じて移住してきた人々で構成される一般社団法人「田尾フラット」のメンバーでした。彼らは、背丈以上に伸びた屋外の雑草を刈り取り、校舎内を改装するなど敷地を再生し、豪華なテントを使ったグランピング事業の用地を探していた東京のホテル業大手の誘致に成功しました。観光客が増えただけでなく、施設内のレストランには地元の高齢者も訪れるようになり、東京から移住した元銀行員による「寺子屋」に子どもたちが集うなど、地域住民の交流拠点としても機能しています。誘致に尽力した市の職員も、「校舎が新しく生まれ変わったおかげで、高齢者が中心だった集落に変化の兆しが見え始めた」と、その効果に期待を寄せているようです。
また、地域の特性を最大限に活かし、域外から観光客や企業を呼び込むことに成功している事例も増えています。そのユニークさで大きな話題を呼んでいるのが、高知県室戸市にある「むろと廃校水族館」です。地元の漁港で水揚げされた魚やウミガメを、学校のプールや旧理科室などの教室で展示するという斬新なアイデアが人気を呼び、2018年の開館からわずか1年で20万人以上の来場者を記録しています。SNS上では「プールの水槽が斬新すぎる」「廃校の雰囲気がそのまま残っていて面白い」といった好意的な投稿に加え、展示中のイカがスミを吐いて水槽が濁った際に公式Twitterがユーモラスな「お詫び」を投稿したところ、ポジティブなリプライと数十万件の「いいね」が集まるなど、そのユニークな運営スタイルも広く受け入れられています。
さらに、宮城県東松島市では、2018年4月に「キボッチャ」が開業しました。これは東日本大震災の教訓を生かし、親子連れなどが防災について学べる施設やプログラムを提供しており、単なる観光だけでなく社会的な意義も持つ施設として注目されています。一方、千葉県南房総市の「シラハマ校舎」は、ゲストハウスやレストランの運営に加え、教室だった部屋をオフィスとして貸し出しています。ここには大学の研究所やサーフショップなどが入居し、すでに満室状態だそうです。校庭には良品計画と連携して、同社が1棟300万円で販売する「無印良品の小屋」が並び、週末には都市部からマリンスポーツやバーベキューを楽しむ人々が宿泊に訪れるなど、新しい働き方やライフスタイルを提案する拠点になっていると言えるでしょう。
少子化により学校の統廃合が進む南房総市は、廃校跡への企業誘致を積極的に推進しており、2014年からは企業が入居する際に一定期間賃料を無償化する施策を実施しています。これによって、東京都内の情報通信業や中国の製造業などの企業が入居し、地域での新しい雇用も生まれていると商工課の担当者は効果を実感しています。このように、廃校の活用は地域の賑わいを取り戻すだけでなく、地域経済の活性化にも直結しているのです。
💡成功の鍵は「地域外の視点」と「若者の柔軟な発想」
廃校の活用事例を研究する愛知大学の嶋津隆文研究員は、成功しているケースには共通点があると分析しています。それは、地域にUターンやIターンで戻ってきた比較的若い世代の人々のアイデアが、効果的に取り入れられている点です。旧来の地域の発想にとらわれず、柔軟な視点を持った人材が、廃校という遊休施設を新たな価値を持つ資源として見い出し、事業化へと結びつけているのでしょう。
一方で、アイデア不足などが原因で活用が進んでいない自治体も存在します。嶋津研究員は、そういった自治体に対して、「人口構成や立地条件などが似ているにもかかわらず、すでに成功を収めている他の事例から、成功のエッセンスを学ぶことができるはずだ」とアドバイスを贈っています。地域の歴史と建物の魅力を守りつつ、地域外のニーズと新しい発想を融合させることこそが、地方創生における廃校再生の成功を大きく左右する鍵となるに違いありません。