2019年6月、中央アジア諸国を巡る中国とロシアのせめぎ合いが鮮明になっています。両国はアメリカの保護主義的な動きに反対する立場では一致していますが、旧ソ連圏の国々に対してそれぞれ異なる戦略で影響力を強めており、水面下で綱引きを演じている状況です。中国は巨大な広域経済圏構想である「一帯一路」を軸に経済的な関与を深める一方、ロシアは安全保障面での支援を通じて旧ソ連諸国との結びつきを維持しようとしています。この中ロの二大勢力圏が融和できるのかどうかが、今後の両国関係の動向をも左右する重要なカギを握っていると言えるでしょう。
中国の習近平国家主席にとって、中央アジアは「一帯一路」構想を進めるうえで、石油や鉱物などのエネルギー戦略上、極めて重要な拠点と位置づけられています。中国は資源開発の権益を確保し、天然ガスをパイプラインで本国へ輸送するルートを確保しています。さらに、中国からヨーロッパへ至る交通の要衝としても重視しており、鉄道輸送網や道路など、各国のインフラ建設に対して積極的に融資を行い、経済的な影響力を着実に高めています。
これに対し、ロシアのプーチン政権は1991年のソ連崩壊後も、この地域で強権的な政権の「後ろ盾」として、その影響力を維持してきました。タジキスタンやキルギスにはロシア軍が駐留を続けており、安全保障面での強い関与を示しています。経済的に厳しい状況にあるトルクメニスタンに対しては、3年ぶりにガスの輸入を年内に再開して支援する方針を打ち出しました。さらに、ウズベキスタン初の原子力発電所の建設にも協力し、2019年5月に工程表に署名していますし、カザフスタンにも同年4月に原発建設の提案を行うなど、長期的な軍事基地の維持、武器輸出、そしてエネルギー協力といった手法で各国への支援を強化し、中国への傾倒を食い止めようと試みているのです。
つまり、中国は経済協力、ロシアは安全保障という役割分担を、上海協力機構(SCO)という枠組みを利用して模索しているのが現状です。しかし、ロシア側には、自らの「裏庭」と見なしてきた地域への中国の進出に対する根強い警戒感が存在します。この中ロの共存がうまくいくかどうかの試金石となるのが、両国が主導する二つの広域経済圏構想の連携と融合が、どの程度進むのかという点です。
ロシアが主導する「ユーラシア経済同盟」は、カザフスタンやキルギスなどの旧ソ連諸国を巻き込み、勢力圏の維持を目指すものです。2015年にはこの経済同盟と中国の「一帯一路」を結びつけることで両国首脳は合意しました。しかし、ロシアの独立系メディアによると、この連携に基づく事業はほとんど進展していない状況です。そのような中で、2019年6月にロシアを訪問した習主席は、7日の演説で「プーチン大統領が進めるユーラシアパートナーシップと結びつけていく」と述べ、改めて「一帯一路」への積極的な参加を呼びかけています。これは、ロシア側の警戒心を解き、両国間にあつれきが生じるのを避けたいという、中国側の思惑が透けて見える動きでしょう。
一方、中央アジア諸国側にも、中国への過度な依存が国の独立を脅かすのではないかという懸念が広がっています。キルギスでは2018年末から2019年1月にかけて、中国人の移住や労働を制限するよう求める反中国デモが継続的に発生しました。カザフスタンの首都では、中国が担当していた鉄道建設が資金不足を理由に中断するなど、事業の停滞も目立ちます。また、インフラ整備の資金提供を受けるタジキスタンやキルギスでは、対中債務が膨張し、過剰な借金によって国が主権を失いかねない「債務のわな」に陥りつつあるという指摘もあります。習主席が2019年6月15日から16日にかけて予定している両国への訪問は、こうした危機的な状況にある両国との関係を立て直す狙いがあるとみられるのです。
私見を述べさせていただきますと、中央アジアという地政学的に重要な地域において、中国とロシアが反米という共通項で手を結びながらも、互いの核心的な利益が衝突する場面が増えてきていると見ています。中国が経済力で「現代版シルクロード」とも呼ばれる「一帯一路」を拡大しようとする中、ロシアは長年の歴史的・軍事的な影響力を手放すつもりは毛頭ありません。今後、中国の事業拡大をロシアと中央アジア諸国が引き続き受け入れられるのかどうかは不透明であり、不協和音がさらに広がれば、「一帯一路」の将来に悪影響を及ぼすだけでなく、強固に見える中ロ関係そのものにも亀裂を生じさせる可能性があると危惧しています。