2019年、日本の食肉市場に大きな変化の波が押し寄せています。その主因となっているのが、環太平洋経済連携協定(TPP)と日欧の経済連携協定(EPA)です。TPPが2018年12月に、日欧EPAが2019年2月にそれぞれ発効し、2019年4月をもって制度上の発効2年目を迎えました。これにより、牛肉や豚肉といった主要な畜産品の輸入関税が一段と引き下げられ、市場における輸入品の攻勢が一段と強まっています。
特に2019年4月の輸入量は衝撃的な高水準を記録しており、牛肉の輸入量は同月としては19年ぶり、豚肉の輸入量は14年ぶりの高水準に達しました。具体的な数値を見てみますと、牛肉は前年同月比8%増の6万7268トン、豚肉は同23%増の9万8314トンと、大幅な伸びを見せています。この背景には、もちろん関税が下がった影響がありますが、一部の輸入業者は関税引き下げを見越して3月に調達を控えていた反動も、4月の数字を押し上げた要因だと分析しています。しかし、この関税の引き下げは、単に輸入量を増やすだけでなく、輸入元の勢力図を劇的に塗り替え始めていると言えるでしょう。
牛肉市場の主役はカナダ産へ、TPP効果で価格競争力アップ
牛肉では、TPP参加国からの輸入が顕著に伸びています。TPPが制度上の2年目に入ったことで、牛肉の関税は発効前の27.5%から26.6%へと下がりました。これにより、特にカナダからの輸入が前年同月比49%増の4780トンと急増しています。市場関係者の見解では、カナダ産牛肉はもともと穀物肥育による食味が日本人好みの傾向がありましたが、TPPによる関税引き下げで、米国産よりも約10%ほど割安になったのです。例えば、ステーキなどで人気のヒレ肉では、米国産の輸入価格が1キロあたり3750円程度なのに対し、カナダ産は3400円程度と推測されています。双日食料の小穴裕ビーフ部部長も、「高価格帯の部位ほど関税差のメリットが大きく、スーパーなどでのカナダ産の取り扱いが増加している」と語っています。この動きはカナダ産にとどまらず、ニュージーランド(NZ)産も49%増の2318トン、メキシコ産は3倍の1368トンと、TPP参加国(日本を除く)からの輸入シェアは合計60%に上昇し、その存在感を高めています。
豚肉は欧州連合(EU)産が躍進、スペインの高品質・低コストが強み
一方、豚肉市場では、日欧EPAの発効により、欧州連合(EU)産が急伸しています。日欧EPAでは、豚肉の高価格帯に対する従価税(じゅうかぜい)が2.2%から2.0%へと引き下げられました。この結果、EUからの豚肉輸入量は前年同月比47%増の4万4010トンと大幅に増加しています。特に食品メーカーなどが「輸出意欲が強く、価格も安い」と評価しているのがスペイン産です。スペインは生産コストが他のEU諸国よりも安いことに加え、日本でも高級ブランド豚であるイベリコ豚の評価が高まっていることが追い風となっています。農畜産業振興機構によると、スペイン産の冷凍豚バラ肉の卸値は1キロあたり567円と、主要輸入国の一つであるデンマーク産よりも8%も安価に提供されており、品質と価格の両面で大きな競争力を持っていることが分かります。
TPP・日欧EPA不参加の米国産が苦境に、SNSでも注目集まる
関税の恩恵を受けているTPP参加国やEU産が勢いを増すなか、苦戦が目立つのがTPPや日欧EPAに不参加の米国産食肉です。2019年4月の米国産牛肉の輸入量は前年同月比1%減の2万6959トン、豚肉は0.2%減の2万1354トンと、ほぼ横ばいか微減となりました。全輸入量に占めるシェアで見ると、米国産牛肉は40%で4ポイント低下、豚肉も22%で5ポイント低下しており、ある食品メーカーの担当者が「米国の一人負け状態」と表現するように、関税差による価格競争力の低下が明確に表れてきています。これに対し、SNS上では「食卓の選択肢が増えるのは消費者として嬉しい」「国策による価格差がここまで出るのか」といった、消費者の期待と驚きの声が多く寄せられていました。一方で、「このままでは日本の畜産農家への影響が心配だ」といった懸念の声も少なからず見受けられます。
今後の見通しと日本政府への圧力の高まり
この状況が続けば、米国は危機感を募らせ、日本との間で進行中の物品貿易協定(TAG)交渉において、食肉に関する関税引き下げの圧力を一段と強めるでしょう。食肉卸のスターゼンの担当者も、「米国がTAG交渉で関税下げ圧力を強める恐れがある」との見方を示しており、今後の日米交渉の行方が日本の食肉市場の未来を大きく左右することになりそうです。私見では、自由貿易協定による関税の引き下げは、競争原理を働かせ、結果として消費者に安価で多様な選択肢を提供するため、大いに歓迎すべきだと思っています。しかしながら、急激な市場の変化は、国内の畜産業に大きな影響を与えることも事実です。日本政府には、国際的な自由化の流れを受け入れつつも、国内生産者がこの変化に対応できるような適切な支援策と、米国との交渉における毅然とした対応が求められるのではないでしょうか。