【大宅賞・講談社賞が刷新】伝統あるノンフィクション賞が改称!デジタル時代の読み応えをどう選ぶ?

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長きにわたり日本のノンフィクション界を牽引してきた権威ある文学賞が、この2019年、大きな転換期を迎えています。40年以上の伝統を持つ「大宅壮一ノンフィクション賞」と「講談社ノンフィクション賞」が名称を変更し、賞のあり方そのものを見直す動きが活発化しているのです。これは、出版業界やメディア環境の急激な変化に対応し、ノンフィクションというジャンルの本質を改めて問い直す、意義深い挑戦であると言えるでしょう。

1970年に創設された「大宅賞」は、選考体制や方法の模索を続けてきました。2014年の第45回では、書籍と雑誌の部門に分け、さらに第48回には「大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞」と改称し、一般読者によるネット投票で選ぶ「読者賞」を設けました。しかし、先日受賞作が発表された第50回からは、この読者賞を廃止し、第44回以前のように書籍と雑誌から広く選ぶ形に戻ったのです。

主催する日本文学振興会の担当者によれば、読者投票がノンフィクションという分野の特性に「そぐわなかった」ことがその理由だと説明されています。実際、2017年に読者賞を受賞した菅野完氏の『日本会議の研究』(扶桑社新書)には、非常に多くの票が寄せられました。この作品は、一般の読者が手に取りやすい800円という新書という体裁に加え、一時販売差し止めになったという話題性も相まっていました。つまり、読者票が作品の内容というよりも、価格や社会的な注目度といった、非文学的な要素に左右された可能性が否定できない、という問題意識があったのでしょう。

この時の選考体制は、読者票に加えて約10人の出版関係者が投票し、作家の後藤正治氏が選考顧問として最終決定するという複雑なものでした。しかし、今回からは、著名な作家ら5人の選考委員による従来のシンプルな体制へと回帰し、ノンフィクションの本質的な価値、すなわち事実に基づいた深い洞察力や構成力、そして優れた文章力で、社会や人間を深く描く力があるかどうかを、専門家の目で厳しく評価する姿勢を明確にされたようです。

一方、今年で41回目を迎える「講談社ノンフィクション賞」も刷新を図りました。新たに『誘拐』や『不当逮捕』といった戦後ノンフィクションの金字塔を打ち立てた大作家、本田靖春氏の名前を冠し、「講談社・本田靖春ノンフィクション賞」として再出発を切っています。同賞に20年以上携わる講談社の柿島一暢氏は、晩年、講談社と特に関係の深かった本田氏の「偉業をたたえるため」の改称だとその意図を語っています。

また、選考委員でもある後藤正治氏は、本田氏の作品が「文学的な作風で、人間を描く力を持っていた」点から、世代を超えて読み継がれていると指摘し、今回の改称を歓迎しています。文学的な才能とジャーナリズム精神を兼ね備えた本田氏の名前を冠することで、同賞が目指す作品の方向性が示されたと言えるでしょう。これまでの同賞は「雑誌ジャーナリズムを標榜して、同時代をどう切り取るか」にこだわってきたと、柿島氏はその特質を説明しています。

ノンフィクションの書き手を育ててきた雑誌メディアは、近年、紙の部数を大きく減らしています。こうした中、「現代ビジネス」や「文春オンライン」といったウェブ媒体、さらにはヤフーのニュース特集など、デジタルプラットフォームが、かつての雑誌に代わる重要な発表の場となっているのです。後藤氏も「ネット媒体がかつての雑誌の役割を引き継いでいる」と、このメディアの変化を的確に捉えています。このようなデジタル化の波と、それに伴う読者の動向の変化は、ノンフィクション賞のあり方に対し、今後も大きな影響を与え続けるに違いありません。

📚デジタル時代のノンフィクションの価値とは?筆者の見解

私は、今回の両賞の改称・刷新は、ノンフィクションというジャンルが真に生き残るために避けて通れない、非常に建設的な変化だと考えています。特に大宅賞が読者賞を廃止し、専門家による選考に戻した決断は英断でしょう。ネット投票やSNSの反響は、作品の知名度や一過性の話題性を高める力はありますが、ノンフィクションが持つべき、地道な取材に基づく「真実への追求」や「深い批評性」といった、活字文化の根幹に関わる価値を正当に評価するには限界があるのではないでしょうか。一時的なブームではなく、後世に残るべき読み応えと記録としての価値を見極めるためには、やはり、確かな見識を持った専門家の目が必要なのです。

講談社賞が本田靖春氏の名前を冠したことは、単に伝統を重んじるだけでなく、人間に対する深い洞察と文学的な筆致を持つ「良質な作品」への回帰を志向しているように感じられます。(SEOキーワード: 本田靖春、文学的なノンフィクション)。ノンフィクションの土壌が雑誌からネットへと移る中、デジタルメディアのスピード感や広範な拡散力は活かしつつも、その中で生まれる「本物のノンフィクション」をどのように定義し、顕彰していくのか。両賞の動向は、今後のジャーナリズムと活字文化の未来を占う、重要な試金石となるでしょう。

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