2019年6月2日から6月8日までの文芸書ランキング(三省堂書店名古屋高島屋店調べ)は、ソーシャルメディア時代を象徴する顔ぶれがトップを飾り、特にインフルエンサーたちの勢いが強く感じられる結果となりました。その中で、見事1位に輝いたのが、YouTubeやInstagramなど、複数のSNSで絶大な人気を誇るクリエイター、kemio氏による初のエッセイ『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(KADOKAWA)です。このタイトル自体が彼のユニークな世界観を物語っており、「棺桶まで永遠のランウェイ」という、人生を最期まで自分らしく華やかに歩み続けるというメッセージが、特に若い世代の読者から熱狂的な支持を集めています。
kemio氏は、わずか6秒の動画共有アプリ「Vine」での活動から注目を集め、独自のボキャブラリーや「あげみざわ」「〜しか勝たん」といった流行語を生み出し続けている、まさに“若者のカリスマ”と言える存在でしょう。彼の発信する言葉は、一見すると軽快でコミカルですが、その根底には、幼少期の経験から培われたポジティブな生き方や、既存の価値観にとらわれない自立した思考が流れています。この書籍は2019年4月18日の発売後すぐに大きな反響を呼び、発売日にはすでに重版が決定するなど、SNSでは「共感しかない」「救われた気持ちになる」といった好意的なコメントが溢れかえっており、その熱狂ぶりがランキングでも証明された形となりました。多くの読者が、彼の痛快な人生論に、閉塞感のある現代社会を生き抜くヒントを見出しているのではないでしょうか。
📚 インフルエンサー勢の活躍が目覚ましいランキング
ランキングの2位と3位にも、SNSや動画投稿サイト、すなわち「インフルエンサー」として活躍する著名人による書籍がランクインしています。2位は人気動画クリエイター集団「東海オンエア」のメンバーである虫眼鏡氏による『続・東海オンエアの動画が6.4倍楽しくなる本』(講談社)で、その人気は動画コンテンツの枠を超え、活字メディアにも拡大していることが見て取れます。また、3位には「モテクリエイター」として知られるゆうこす氏(菅本裕子氏)の『共感SNS』(幻冬舎)が入り、彼女が提唱する「共感」を軸としたSNS活用術は、現代のコミュニケーション戦略として高い関心を集めていることが分かります。インフルエンサーが発信するコンテンツは、彼らのパーソナリティが強く反映されているため、読者は一方的な情報としてではなく、まるで友人からのメッセージのように親しみを持って受け止められるのでしょう。これは、彼らが持つ「共感性」という名の強力な武器が、従来の著名人とは一線を画す購買力に繋がっている証拠だと思います。
さらに、ランキングを掘り下げていくと、自己啓発や生き方に関する書籍が強い存在感を放っていることが分かります。6位のROLAND氏による『俺か、俺以外か。』(KADOKAWA)や、8位に並んだデヴィ夫人ことラトナ・サリ・デヴィ・スカルノ氏の『選ばれる女におなりなさい』(講談社)と、韓国の作家キム・スヒョン氏の『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)は、それぞれが異なる立ち位置から「自分らしく生きる」ことの重要性を説いています。また、9位のチョ・ナムジュ氏『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)も、韓国で社会現象を巻き起こしたフェミニズム小説として、現代女性の抱える生きづらさや葛藤を描き出し、日本国内でも高い注目を集めていると言えるでしょう。
💡 文芸作品と異色のエッセイが織りなす多様な読書体験
もちろん、純粋な文芸作品も読者の心を捉えて離しません。4位の原田マハ氏『美しき愚かものたちのタブロー』(文藝春秋)や、5位の瀬尾まいこ氏『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)といった作品は、ストーリーテリングの魅力によって根強いファン層に支えられています。特に原田マハ氏はアートを題材とすることが多く、本作のタイトルにある「タブロー」とは、額縁に収められた絵画の総称を意味する専門用語ですが、その美しく洗練された文章表現は多くの読者を魅了し続けているのです。また、7位にはお笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一氏が、妻の友紀氏とともに執筆した『ゴミ清掃員の日常』(講談社)がランクインしており、異色の職業エッセイが持つ、日常に潜む驚きや発見を提示する力も、このランキングから読み取れるでしょう。このバラエティ豊かなラインナップからは、読者が求めるものが、著名人の生き様から実用的なノウハウ、そして深く心に響く物語まで、非常に多岐にわたっていることが理解できるのです。
SNSの波に乗ったインフルエンサー書籍が上位を独占する一方で、人々の生活や感情に深く関わる普遍的なテーマを扱った作品も堅調な売れ行きを見せています。これは、現代の読書家たちが、一過性のトレンドだけでなく、本質的な自己探求や他者理解を求めている証拠ではないでしょうか。多忙な毎日を送る中で、読書という行為が、他者の経験や知恵に触れる貴重な時間として、これからも大切にされていくものと私は確信しています。