2019年6月15日、静岡県内の自動車および自動車部品メーカー各社が、軒並み研究開発費の大幅な拡大を計画しているというニュースが飛び込んできました。これは、自動車業界が「100年に一度の変革期」を迎えていることへの強い危機感と、未来に向けた積極的な対応の表れでしょう。特に、電気自動車(EV)化や自動運転技術の進展など、自動車のあり方を根本から変える「CASE」と呼ばれる技術革新への対応を急ぐ姿勢が鮮明に見受けられます。「CASE」とは、Connected(つながる)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)の頭文字をとった言葉で、これらの技術が融合することで、今後の自動車の進化の方向性が決まってくるとされています。現在の業界の大きな潮流に対し、静岡の企業群がまさに背水の陣で挑む覚悟が伝わってくるようです。
その中でも、スズキは2020年3月期に過去最高の1,700億円を研究開発に充てる計画を打ち出しました。これは前期と比べて8%もの増加であり、電動化や自動運転技術といった分野への注力を強く示しています。これらの最先端技術を単独で開発するのは極めて困難なため、スズキは2017年に包括提携で合意したトヨタ自動車と、このCASE分野においても協業を深めていく考えです。さらに、同社がマツダなどと共同で設立した電気自動車の基幹技術を開発する新会社などとも連携し、変革の時代を乗り切るための盤石な体制を築こうとしているのが分かります。強大なライバルと手を組み、技術的な困難を突破しようとするこの戦略は、非常に理にかなっているといえるでしょう。
部品メーカーも「電動化」に危機感と勝機を見出す
自動車本体だけでなく、部品メーカーもこの波に対応すべく動いています。クラッチ大手のエフ・シー・シー(FCC)は、今期に過去最高となる50億円の研究開発費を計画しており、前期から2割も増額するという積極ぶりです。同社は、電動二輪車向けのモーター開発を進めるため、イスラエルのスタートアップ企業であるEVRモーターズと提携し、電動化を見据えた最先端のモーター技術の確立を目指しています。さらに、研究開発体制も強化しており、技術研究所内のEV製品開発組織や、燃料電池システムを担当する次世代事業開発室などを統合し、「新事業開発部」を立ち上げました。この新部門を含めた研究開発要員は、現在の約280人から今期末には300人以上へと増員する計画で、同社の本気度がうかがえます。
また、駆動系部品を手掛けるユニバンスは、今期の研究開発費が約15億円と前年並みを維持しつつも、引き続き高水準の投資を続けています。彼らは、EVやハイブリッド車(HV)向けの駆動装置の研究開発を進めており、特に開発中の駆動装置は、2つのモーターと2つの2段変速可能なギアボックスを組み合わせることで、出力の大きなモーター1つを使う場合に比べて、コストやサイズを抑えられるという高い優位性を持つようです。排気系や駆動系部品を扱うユタカ技研も、今期は前期比6%増の28億円を次世代のモーター部品などに投じる計画です。そして、車載電装品のASTIも前期の約2億円に対し、今期は2億4000万~2億5000万円をEV向け充電器などに振り分ける見込みです。
このように、各社が積極的に研究開発投資を増やす背景には、静岡県特有の産業構造への強い危機感があります。静岡経済研究所の調査によると、2016年の県内自動車部品出荷額2兆7000億円のうち、EV化に伴って長期的な生産減少の影響が懸念されるエンジンやトランスミッションなどの部品分野が、実に全国で最も大きい65%を占めているのです。同研究所の調査では、回答企業の6割以上が「危機感がある」と答えており、約3割の企業が新技術の開発によってEV化への対応を進めると明言しています。この結果を見ても、今回の研究開発投資の拡大と他社との連携の動きは、生き残りのためには避けて通れない道だと言えるでしょう。今後は、この積極的な投資と協業が、静岡の自動車産業の未来を切り拓く鍵となるに違いありません。