北陸地方で民泊(みんぱく:個人の住宅やマンションなどの空き部屋を、旅行者などに有料で提供する宿泊サービスのこと)が全体として苦戦するなか、富山県南砺市の山あいに位置する利賀村地域(とがむらちいき)では、この新しい宿泊の形が地域おこしの起爆剤となり、大きな注目を集めています。都市部では法規制の厳しさや近隣住民とのトラブルなどで広がりを欠く民泊ですが、この過疎化と高齢化が進む地域では、逆にその利点を最大限に活かすことに成功しているのです。
その活気の中心にあるのが、民泊施設「囲炉裏のある山奥の家」でしょう。この施設では、多い時で一度に10人を超える観光客が宿泊し、その大半をアジアや欧米から訪れた外国人観光客が占めているというから驚きです。周囲にはスーパーマーケットもコンビニエンスストアもない、文字通り「山奥」の立地にもかかわらず、登録されている民泊仲介サイトには英語のレビュー(評価)が溢れ、問い合わせがひっきりなしに寄せられています。
木造2階建ての伝統的な日本家屋に足を踏み入れると、囲炉裏(いろり)のある居間の窓いっぱいに、豊かな緑に覆われた雄大な山並みが迫ります。オーナーの木田麻衣さんは、「私たちが当たり前の日常として暮らしていることが、海外や都会の人々にとっては特別な体験であり、非日常の価値を持っていると気づきました」と笑顔で語っています。この言葉は、過疎地域が持つ潜在的な観光資源の大きさを端的に示していると言えるでしょう。
「山奥の家」が発する活気は、瞬く間に近隣へと波及しました。その賑わいを目にした近隣の一人暮らしの高齢者らが、「これなら自分にもできる」と次々に民泊経営に乗り出すようになったのです。2019年6月15日時点で、「山奥の家」を皮切りに、利賀村地域内だけで合計9件もの民泊が登録されています。これは、地域住民による自発的な空き家活用という点で、非常に大きな成果と言えるでしょう。
南砺市商工会利賀村事務所の斉藤嘉久所長は、この状況を「民泊のおかげで、長らく途絶えていた人の流れが戻り、地域に活気が生まれています。特に空き家を有効活用できることは、過疎地域にとってこれ以上ないチャンス」と歓迎しています。同事務所は、この勢いをさらに加速させるため、戸別に民泊登録を推奨しており、今夏までには15件にまで施設数を増やしたいという積極的な意向を示しています。
私自身の見解としても、宿泊施設が少ない中山間地(ちゅうさんかんち:山地と平野の中間にある地域、日本では過疎化・高齢化が深刻な地域が多い)において、民泊は観光客の貴重な受け皿となることは間違いありません。大手のホテルチェーンが進出しにくい、あるいは採算が取りにくい過疎地域こそ、地域資源である空き家を活かせる民泊の利点は非常に大きいと確信しています。利賀村の事例は、地方創生(ちほうそうせい:東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけるための政策)の成功モデルとして、全国の過疎地域にとって大いなる希望となるでしょう。