2018年6月15日の住宅宿泊事業法(民泊新法)施行から丸一年が経過しましたが、首都圏の自治体ではいまだに民泊に対する厳しい規制を緩和できずにいる現状が明らかになりました。その背景には、何よりも地域住民の根強い警戒感が存在します。この民泊新法は、それまでグレーゾーンであった個人の住宅を活用した宿泊サービスを合法化し、健全な発展を目指して策定されました。しかし、各自治体が住民の不安を取り除くために独自に設けた上乗せ規制が、違法民泊の減少には寄与したものの、ルールの厳格化に繋がっているのです。
実際、法令を逸脱した一部の民泊利用者の行動が、地域住民の「民泊嫌い」を助長している側面は否定できません。そうした状況下で、自治体側は住民の安心を最優先する姿勢を崩せず、規制緩和への一歩を踏み出すことに躊躇しています。違法民泊対策は進んだ一方で、住民からの苦情件数は増加しており、行政側は地域の実情に合わせた最適なルールの模索という、難しいかじ取りを迫られていると言えるでしょう。
🚨住民の不安と行政の苦悩:厳格化する規制のリアル
民泊事業者が法令順守を徹底し、地域貢献にも取り組むことを目指して、東京都新宿区が2019年6月6日に米民泊大手エアビーアンドビーと連携協定を締結した際には、区民から「なぜ協定を結ぶのか」「裏切られた気持ちだ」といった批判が相次ぎました。これに対し、吉住健一区長は「虎穴に入らずんば虎子を得ずという決意なんです」と釈明に追われる事態となりました。これは、地域で最も多くの民泊施設を抱える新宿区として、事業者に法令順守を促し、地域社会との共存を求めるための協定であったにもかかわらず、住民の警戒心がいかに強いかを如実に示す出来事だったと言えるでしょう。
新法が施行されて以降、エアビーアンドビーが仲介サイトから違法な掲載を取り下げるなどの対応を行った結果、違法民泊の件数は減少傾向にあると厚生労働省は見ています。首都圏の自治体が把握した違法民泊は、2018年3月末時点では2,394件でしたが、2019年3月末には2,000件程度に減っている模様です。しかし、新宿区に寄せられた住民からの苦情は減少しておらず、2018年度は570件と、2017年度よりも約7割も多くなりました。この数字は、違法な施設が減っても、民泊自体に対する住民の不満や不安が解消されていないことを示唆しているのではないでしょうか。
また、神奈川県鎌倉市などを管轄する鎌倉保健福祉事務所には、新法施行直後の2018年6月15日から2019年3月末までの期間に、相談や苦情が延べ942件も寄せられました。同県の担当者によると、鎌倉は元々静かな住宅地であるため、旅行者が引くスーツケースの走行音や、利用者の路上駐車などが目立ちやすく、苦情に繋がりやすいという事情があるようです。古くから観光地として知られ、観光客の受け入れ体制が整っている箱根などと比較しても、相談件数が多い状況が見て取れます。
🏘️自治体の本音と今後の課題
住民の根深い「民泊嫌い」を前に、自治体は独自の上乗せ規制を緩和することに及び腰になっています。新宿区の吉住区長も「区の条例には、事業者を気の毒に感じる部分もある」と認めながらも、「住民の安心を最優先に考えれば、規制を緩めるわけにはいかない」と、厳しい態度を維持しています。この姿勢は、台東区でも同様で、上野や浅草といった繁華街を抱えるこの区も規制緩和には消極的な姿勢を示しています。
台東区の上乗せ規制には、管理者が常駐していない施設は、土曜日や日曜日しか営業を許さないという規定が存在します。区の担当者は、利用者と何らかの連絡が取れる体制が住民の安心に繋がっているとして、「常駐しなくてもよいとは言えない」と、本音を漏らしています。一方で、さらなる規制強化を求める動きも見られます。千葉県浦安市では、市内の4つの自治会から、騒音、路上喫煙、ごみ処理などの迷惑行為に関する相談が寄せられたため、市は2018年3月に制限区域を定めるなどの措置を講じるよう県に要望書を提出しました。さらに2019年1月にも、住宅地の実情への配慮を求める文書を改めて県に送付しています。
私の見解としては、民泊は増加する訪日外国人旅行者を受け入れる上で、非常に重要な役割を担うインフラだと考えています。しかし、自分の生活圏に不特定多数の人が出入りすることに警戒感を抱く住民がいるのは紛れもない事実です。利用者と周辺住民の双方が安心して共存するためには、適切なルールが不可欠でしょう。ただ、そのルールが厳しすぎて業界の成長を妨げたり、反対に緩すぎて違法民泊が横行したりすることは避けるべきです。地域の特性や住民感情を細やかに汲み取りながら、いかにして民泊新法が目指した健全な発展と、住民の安心を両立させるか。行政による最適なルールの模索は、今後も忍耐強く続いていくものと推察されます。