2019年6月16日現在、米国企業の債務(借金)が歴史的な水準にまで膨らんでいる状況は、市場関係者や金融当局の間で大きな懸念材料となっています。企業の資金調達を取り巻く環境は、かつてのITバブル期や、世界的な金融危機を引き起こしたリーマン・ショックの前夜をも超える過熱ぶりを見せており、「量」と「質」の両面から警戒感が強まっていると言えるでしょう。この過剰な借り入れが、果たして次の経済危機を誘発してしまうのか、その動向に注目が集まっています。
私は、この企業の債務膨張は、長年にわたる超低金利政策の負の側面が露呈した結果だと考えています。安易に資金を調達できる環境が続いたことで、企業の規律が緩み、本来であれば融資を受けることが難しかった財務体質の弱い企業にまでマネーが流れ込んでしまったのです。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長も、2019年5月には、企業債務の膨張について「サブプライム危機の再来だと言う人も、心配ないと言う人もいる。真相はその中間だろう」と述べ、2008年のリーマン・ショックの引き金となったサブプライムローン(信用力の低い借り手への住宅融資)問題に言及しつつ、強い警鐘を鳴らしました。
📈信用サイクル「見える化」で判明した金融の過熱ぶり
企業が資金調達を行い、経済活動を拡大・縮小させる一連の流れは「信用(クレジット)サイクル」と呼ばれています。このサイクルは景気循環と密接に関連しており、現在はその「拡大期」が極限まで進んでいると見られています。国際通貨基金(IMF)が2019年に発表したデータは、このサイクルの過熱ぶりを視覚化し、市場に衝撃を与えました。IMFは、米企業の資金調達や投資家の行動を示す18の指標を統合し、そのピークを「1」、最低値を「0」として指数化したのですが、その結果、米信用サイクルは2018年末にかけて、ITバブル期やリーマン・ショック前の水準を上回る「1」に近い水準に達していたことが明らかになったのです。
この指数を構成する指標を見ると、企業の債務が著しく増大していること、そして借り手の質が低下していることが明白です。長期間に及ぶ低金利政策の結果、銀行や投資家の融資・投資基準が甘くなり、資金は将来の成長を促すための設備投資だけでなく、M&A(企業の合併・買収)や自社株買いといった、短期的な株価対策に偏って使われる傾向が強まっております。この動きは、企業のバランスシート(貸借対照表)を悪化させ、いざ景気が後退局面に入った際のリスクを増大させる要因になるでしょう。
📉名門企業にも忍び寄る「格下げ」の影とレバレッジドローンの危険性
借り手の質の低下は、中小企業に限った話ではありません。米国を代表するような大企業にもその影響は及び始めています。例えば、ゼネラル・エレクトリック(GE)は2018年に格付けが「トリプルB格」という、投資適格の中でも低いランクにまで引き下げられました。また、通信大手のAT&Tも約20兆円もの巨額な負債を抱え、一時的に投資不適格(俗にいうジャンク債扱い)への引き下げ懸念が浮上するなど、その財務健全性が危ぶまれる事態に直面しています。
さらに危うさを増しているのが、「レバレッジドローン」の急増です。これは、レバレッジ(借入金に依存する比率)が高い、つまり借金が多い信用力の低い企業に対して、担保を取って行う融資のことです。主に投機的なM&Aの資金源として活用され、その融資額は2019年1月から3月にかけて、ついにリーマン・ショック前の水準を凌駕する規模にまで膨れ上がりました。こうした企業が増加することで、本来、貸し手を守るために設定されていた**コベナンツ(契約条件)も次第に緩和され、リスクの高い取引が野放しになっている状況です。
特に警戒すべきは、このレバレッジドローンを裏付けにして組成されるCLO(ローン担保証券)**と呼ばれる証券化商品が急速に増加している点です。投資信託や年金を通じて、個人の資金までもが高リスク企業への融資に向かっている構図は、住宅バブル期にサブプライムローンから作られた証券化商品が世界中に拡散し、危機を深刻化させた当時のメカニズムと酷似しており、この事実に私は強い既視感を覚えます。SNSでも「CLOの増大はリーマン前のCDO(債務担保証券)とそっくりで怖い」「低金利のツケが回ってきている」といった、懸念を示す声が多数見受けられます。
🤔「危機ではない」とする見解と金融当局のジレンマ
もちろん、現時点で差し迫った経済危機が目前に迫っているわけではありません。米企業の債務は、国内総生産(GDP)に対する比率で言えば、リーマン・ショック前とほぼ同水準に留まっています。また、米上場企業は概ね収益を拡大させており、**借金の利払いすら利益で賄えない「ゾンビ企業」**の数は減少しているというデータもあります。しかし、経済や市場環境が悪化すれば、企業の借金返済が滞り、「景気後退の波をさらに増幅させる」(IMF)という最悪のシナリオも否定できません。
FRBは、2018年末まで利上げを続けていた際には、企業の利払い負担増加による信用収縮が懸念されていました。ところが、現在は米中貿易戦争の影響などから景気の下支えのため利下げも視野に入れる状況へと一転しています。これは、企業信用の過熱を認識しつつも、景気悪化を防ぐために金融緩和策を打ちざるを得ないという、金融当局の大きなジレンマを浮き彫りにしています。経済成長を維持しつつ、長年の金融緩和によって蓄積されてしまった「ゆがみ」を、いかにして大きな混乱なく取り除くのか。この「軟着陸」への道のりは、極めて困難であると言わざるを得ません。