漫画家の東海林さだお氏が語る「デパ地下」への愛情あふれる言葉は、多くの読者の共感を呼ぶでしょう。氏いわく、「毎日通っても、ここなら飽きるということはない。なんなら、ここに布団を敷いて住みこんでもいい」とのこと。これは笑いを誘う表現でありながらも、デパートの地下食品売り場が持つ圧倒的な魅力を端的に表した至言といえます。そこはまさに、日本全国、さらには世界中から選りすぐられた逸品や旬の味覚が集結する「食の宮殿」と呼ぶにふさわしい空間なのです。
筆者が2019年6月16日の父の日に東京・新宿の百貨店を訪れた際、その魅力に改めて引き込まれました。例えば青果コーナーでは、宝石のような輝きを放つ山形県産のサクランボ「佐藤錦」が主役でした。一箱税込みで1万2960円という価格は、主に贈答用として扱われる高級品です。思わず「惜しげもなく食べられる身分になりたい」と独り言をこぼしてしまうほど、その美しさと価値は際立っていました。また、この時期の旬として、茹でても焼いても格別な味わいを楽しめる、瑞々しい北海道産のアスパラガスも並べられていました。
さらに筆者を驚かせたのが、鮮魚売り場での光景です。なんと、本来は秋の味覚であるはずの「生の新サンマ」が鎮座していたのです。サンマは、水温の低い海域を好む魚ですが、近年の地球温暖化の影響で日本近海での漁獲量が減少傾向にありました。これを受け、国は2019年から、それまで8月から12月と定められていた公海でのサンマ漁の操業期間の制限を撤廃しました。その結果、市場に出回るようになったのが、この異例の「初夏サンマ」なのです。
この氷詰めされた初物のサンマは北海道産で、1尾430円で販売されていました。一般的に脂が乗った秋のサンマと比較すると、やや細身に見えます。同じ売り場で解凍されたサンマの干物が3尾1080円であったことを考えると、公海まで遠征する漁船の燃料代や、過酷な状況で操業する漁師さんたちの労力を考慮すれば、決して高すぎる買い物ではないでしょう。この「初物」を食すると寿命が延びるとも言われます。本日6月16日の父の日には、この珍しい初物サンマを肴に、冷たい生ビールを一杯所望するお父様も多いのではないでしょうか。この日の晩酌の話題になること間違いなしの逸品です。
デパ地下の魅力は、ただ珍しいものが手に入ることだけではありません。季節の移ろいを食を通じて感じさせてくれる、まさに文化の発信地といえます。例えば、SNSでの反響を見てみると、「デパ地下巡りは最高のエンタメ」「見ているだけで幸せになれる」といった声が多く寄せられており、東海林氏の言葉のように、多くの人々がデパ地下を特別な場所だと感じていることがわかります。初夏のデパ地下で見つけた「初物サンマ」のように、常に新しい発見と感動を与えてくれる「食の宮殿」は、私たちの生活を豊かにしてくれる、かけがえのない存在だといえるでしょう。