国内におけるコメの先物取引、すなわち将来の決められた価格で特定のモノ(ここではコメ)を売買する取引は、その存続が大きな岐路に立たされています。現在、大阪堂島商品取引所(堂島商取)で試験的に上場されているコメ先物の期限が2019年8月に迫っており、同取引所は恒久的な正式上場を目指して奮闘している最中です。この先物取引は、生産者にとって、コメの価格が将来値下がりした場合の損失を回避するヘッジ手段として活用できる大きなメリットがあります。事前に想定した価格で先物を売っておけば、もし実際の市場価格が下がったとしても、先物の反対売買で得られる利益でその下落分を相殺(補填)できるため、安定した事業計画を立てやすくなるのです。
そもそも国内のコメ先物取引は、2011年に堂島商取の前身である関西商品取引所と、当時の東京穀物商品取引所が上場を開始しました。しかし、市場に投機資金が流入することで取引量が増え、成約しやすくなる半面、現物価格が乱高下するのではないかという懸念の声も根強く、市場の機能や効果を検証するための期限付き「試験上場」としてスタートを切りました。これまでに3回も存続期限が延長されており、堂島商取は2019年7月上旬までに、監督官庁である農林水産省へ取引継続の許可を申請する見通しです。
正式上場を実現するためには、商品先物取引法が定める「コメの円滑な生産・流通に必要であること」と「十分な取引量があること」という、非常に厳しい要件を満たす必要があります。堂島商取がこの要件を満たすためにアピールしているのが、取引に参加するコメ農家(生産法人)の増加です。なんと、現在の参加農家数は70社に達し、これは2年前に比べて2倍強という目覚ましい増加を示しています。長らく続いていた生産調整(減反)が2017年産をもって終了したことで、コメ農家は作付け規模を自由に決められる環境に変化し、「1年先の価格が分かるため、生産計画が立てやすくなる」といった肯定的な意見も、新潟県の農業生産法人グリーンなどから聞かれている状況です。
📢SNSでの反響と今後の議論の焦点
コメ先物への関心は高まっており、特定非営利活動法人である日本プロ農業総合支援機構などは、2019年6月17日に、コメ生産者や大学教授を招いてコメの価格形成のあり方を議論するシンポジウムを都内で開催する予定です。堂島商取はこの議論を重要な判断材料とし、上場継続を強く求めていく方針です。しかし、正式上場への道のりは険しいと言わざるを得ません。特に、コメの流通で約3割のシェアを誇り、コメの価格への影響力を維持したい生産者団体、JAグループ(全国農業協同組合中央会・JA全中)は、一貫してコメ先物に反対の姿勢を取り続けています。JA全中の中家徹会長は2019年6月6日の記者会見で、「先物取引は価格の乱高下を招く恐れがある」と述べ、JAグループが反対の立場を継続していることを明らかにしました。
また、政治の動きも無視できません。自民党内からは、「コメは主食であるため、市場にすべてを任せるべきではない」という意見や、「(正式上場は)慎重にやるべきだと言わざるを得ない」といった、現時点での正式上場に否定的な慎重論が聞かれています。実際に、参議院選挙が終了した後、本格的な議論を行うとの見解も示されており、政治判断が大きな鍵を握ると言えるでしょう。SNS上でも「農家にはメリットがある」「主食の価格が乱高下するのは怖い」など、賛否両論の意見が飛び交っており、国民の関心も非常に高いことが伺えます。
さらに、正式上場のもう一つの要件である「十分な取引量」についても逆風が吹いています。2019年1月から5月の1日平均の売買高は1,251枚(枚は最小売買単位で、主力の新潟コシヒカリでは1枚が1.5トンに相当)にとどまり、前回の延長申請時(2017年)の同時期に比べて1割強も減少しているのです。これは、取引の拡大を目指して2018年にSBIホールディングス傘下のグループから新しい売買システムを導入したことが、かえって影を落としていると指摘されています。システム切り替えに伴うコスト負担を嫌がった商品取引会社の利用が進まず、結果として投資家の参加が低調になっていると考えられるのです。
堂島商取の岡本安明理事長は、「何としてもコメ先物を継続させる」と強い決意を表明していますが、正式上場の実現は依然として不透明な状況です。農家の参加が増加しているという追い風はありますが、JAグループの反対姿勢、そして取引量低迷という二つの大きな逆風をどう克服するかが問われています。もし正式上場が困難となった場合、現状の「試験上場」の再延長も選択肢の一つとして検討されることになるだろうと推測されます。私見では、コメという基幹食料の価格安定は重要ですが、農家がリスクヘッジ手段を持てる環境を整えることも、現代の農業経営においては不可欠であり、まずは透明性の確保と安定的な取引を促進する仕組みの構築が急務であると考えます。