2019年6月13日に中東の要衝、ホルムズ海峡付近で発生したタンカーへの攻撃事件を巡り、米国がイランを事件の背後にいるとして、国際的な包囲網を築く攻勢を強めています。この動きに対し、長年の同盟国である英国が足並みを揃え始めた一方で、中国やロシアはイランを擁護し、明確な対立姿勢を見せています。このタンカー攻撃事件は、関係各国を巻き込み、国際社会の分断を深める大きなリスクをはらんでいると言えるでしょう。
米国は、イランの関与を示す証拠を次々と公開しています。パトリック・シャナハン米国防長官代行は6月14日、「機密を解除して情報をできる限り公開していく」と強く主張されました。具体的には、攻撃に使用された爆弾の種類や製造元に関する情報を提供し、さらに米軍の無人偵察機が攻撃を受けたタンカー周辺を飛行中に、イランが地対空ミサイルを発射した事実も明らかにしています。
中でも衝撃的だったのは、イランの精鋭部隊であるイラン革命防衛隊が、攻撃後にタンカーに近づき、不発の機雷を除去する様子を捉えた映像を米軍が公開したことです。この機雷とは、水中に設置され、艦船などが接触または磁気・音響などの影響で爆発するように設計された兵器のことです。この矢継ぎ早の情報公開は、5月下旬に米国が増派を決定した情報収集部隊と無人偵察機の運用拡大が功を奏している可能性を、元国務省高官のマイケル・シン氏などは指摘しています。シン氏は「まだ公開されていない証拠資料が多数存在する」との見解を示しており、今後も米国の情報攻勢は続くと見られます。
米国の強硬な姿勢に、これまでイラン核合意からの離脱を巡って米国と距離を置いていた英国が同調しました。ジェレミー・ハント英外相は6月14日、タンカー攻撃へのイランの関与は「ほぼ間違いない」と断言し、明確なイラン批判に転じました。主要国の中で米国に足並みを揃えたのは英国が初めてであり、米国はこれを機に関係国を取り込み、イランに対する包囲網を強固にしたい考えです。イランと敵対するサウジアラビアも、同様にイランが事件の背後にいるとの見方を示しており、米英サウジといった連携の構図が鮮明になっています。
しかし、こうした強硬な動きは、国際社会の分断を深めています。イランのロウハニ大統領は6月14日の上海協力機構(SCO)の首脳会議の場で、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席に対し「中国やイランへの圧力によって米国は世界を支配しようとしている」と述べ、米国の姿勢を厳しく非難しました。また、ロシア外務省も「事件について誰かを非難してはならない」とする声明を発表しています。イラン核合意の枠組みに残っている中ロ両国は、イランへの支援を明確にしており、対立の構図は「米英」と「中ロ」という勢力図にまで拡大する様相を呈しています。
一方で、関係各国の中には中立的な立場を保ち、慎重な姿勢を示す国も多く存在します。ドイツのハイコ・マース外相は6月14日、米軍がイラン関与の証拠として公開した映像に言及し、「結論を出すには証拠が十分ではない」との見方を示しました。フランスも同様に、結論を急がず、事実の確認に時間をかける慎重な姿勢を崩していません。
中東のペルシャ湾では、過去にもタンカーへの攻撃が危機につながった歴史があります。1980年代のイラン・イラク戦争の最中、両国は戦況打開のため、ペルシャ湾を航行する船舶に機雷やミサイルで攻撃を仕掛けました。特に1988年には、タンカー護衛にあたっていた米軍の艦船が機雷による攻撃を受ける事件が発生しています。これに対し、米軍は「プレイング・マンティス(祈るカマキリ)作戦」と呼ばれる反撃作戦を発動し、イランの石油プラットフォームを破壊し、複数のイラン海軍の艦船を撃沈するという、非常に緊迫した事態に発展した過去があるのです。
現在、今回のタンカー攻撃とその犯人特定を巡っては、米国とイランの主張が真っ向から対立しており、ホルムズ海峡付近で新たなタンカー攻撃が発生する可能性も否定できない、極めて危険な状態にあると言えるでしょう。また、7月上旬にはイランが核関連活動を加速させるかどうかの節目を迎えることも、状況をさらに複雑にしています。これは、核開発を進める姿勢をちらつかせて、外交交渉を有利に進めようとする瀬戸際戦術であるとの見方もありますが、米国の警戒が強まるのは必至です。
国際社会の反応を見ても、米国側に立つ英国と、イランを支援する中国やロシアの関係はより複雑化しており、中東情勢が一段と緊迫化するリスクは確実に高まっていると筆者は考えます。各国の思惑が渦巻く中、国際的な協調が崩れ、偶発的な事態から軍事衝突へと発展しないか、世界中が固唾を飲んで見守っている状況です。