2019年6月16日現在、日本企業の円建て社債(しゃさい:企業が資金調達のために発行する債券のこと)発行が、歴史的な急増を見せています。2019年4月から6月までの発行額は、なんと3.7兆円を超える見込みとなっており、これは同じ期間として過去最高記録を塗り替える水準です。特に、銀行の貸し渋りが深刻だった1998年4月から6月期に記録した3.6兆円を上回り、その勢いが際立っています。この記録更新の背景には、日本の長期金利がマイナス圏で推移し、さらに低下傾向にあることが大きく影響しています。企業側としては、この未曽有の低コストで資金を調達できるチャンスを逃すまいと、発行を急いでいる状況です。
今回の集計は、2019年6月14日までに発行条件が決定した社債に加え、月内の発行計画を合算して算出されました。その結果、前年同期に比べ約3割もの大幅な増加を記録しています。この記録的な発行額を押し上げた立役者は、2019年4月以降に相次いだ超大型の起債(きさい:債券を発行すること)です。具体的には、ソフトバンクグループ(SBG)と武田薬品工業がそれぞれ5000億円の社債を発行し、これらは円建て社債としてはそれぞれ過去最大規模の案件となりました。また、ブリヂストンも設備投資や自社株買い(企業が発行した自社の株式を市場から買い戻すこと)といった積極的な目的に充てるため、合計2000億円の社債を発行するなど、借り換え目的以外での攻めの資金調達が目立ってきています。
この大型発行を強力に後押ししているのは、金利(借りたお金に対して支払う利息の割合)のさらなる低下です。2019年6月14日の日本の長期金利は、マイナス0.135%という約2年ぶりの低水準を記録しました。この金利低下の背景には、米中貿易戦争などの影響による世界的な景気減速を食い止めるため、米国の連邦準備理事会(FRB)が早期に利下げに踏み切るだろうという市場の観測が強く織り込まれ始めていることがあります。社債の発行金利は、国債金利の動向に大きく左右されるため、企業にとっては、まさに低利で資金を調達する絶好の機会となっており、早期の資金調達を目指す動きが活発化しているといえるでしょう。
一方で、投資家(資金を投じて利益を得ようとする個人や組織)側の需要も非常に旺盛です。国債(国が発行する債券で、一般的に最も安全性が高いとされる)と比較するとリスクは存在するものの、社債はプラスの利回り(投資した元本に対する収益の割合)を比較的確保しやすいという魅力があります。マイナス金利となっている国債への投資を避けたいと考える資金、通称「リスク・マネー」が社債市場に流入している状況です。この投資家からの強い需要を追い風に、日本製鉄や東京電力ホールディングス傘下の東京電力パワーグリッドといった企業は、当初の予定額を増やして社債を発行することに成功しています。
私見ではありますが、企業がこの低金利環境を活かして、単なる借り換えに留まらず、設備投資や自社株買いといった将来を見据えた「攻めの投資」に積極的に資金を振り分けている点は、日本経済にとって非常に明るい兆候だと考えられます。特に、金利の低下が長期化するとの見通しがある中で、今のうちに低コストで事業基盤を強化しようとする企業の姿勢は、非常に合理的だと言えるでしょう。この積極的な資金調達は、将来の成長への期待を高める要因になるのではないでしょうか。
SNS上でも、この社債発行ラッシュは大きな反響を呼んでいます。特に「マイナス金利(預金者が銀行にお金を預けると金利を支払わなければならない状態)ってこういうところで企業の追い風になるんだね」といった、金利の仕組みに関するコメントや、「SBGや武田薬品が5000億円って桁が違う…調達した資金で何をするのか気になる!」など、大型発行の使途に対する関心を示す声が多く見受けられました。また、大和証券のチーフクレジットアナリストである大橋俊安氏が示唆するように、「日本銀行が2020年春までの金融緩和継続を打ち出している以上、より高い利回りを求める投資家による社債購入意欲は当面続くだろう」という市場の見方も、発行規模が高水準で推移する可能性を示唆しています。
さらに、以前に発行された社債のうち約8.9兆円が、2019年度中に償還(会社が投資家から借りたお金を返すこと)を迎える予定となっています。この償還金を手当するための借り換え目的の発行も、今後継続的に行われる見込みです。これらの要因を総合的に鑑みると、日本企業の社債発行の旺盛な勢いは、当面の間、継続することが予想されます。低金利という絶好の追い風に乗って、企業がどのような戦略的な資金活用を進めていくのか、引き続き注目していく必要がありそうです。