世界的な巨大EC(電子商取引)企業である米アマゾン・ドット・コムや中国のアリババ集団が勢力を拡大するなか、世界に18億人もの信者を抱える巨大なイスラム市場をターゲットにしたアジアの新興企業が注目を集めているようです。その中心にいるのが、世界で最も多くのイスラム教徒が暮らすインドネシアで事業を展開するEC企業、「ブカラパック」でございます。
ブカラパックの共同創業者であるムハマド・ファジュリン・ラシード氏は、同社の強みとして、イスラム教徒向けの衣料品や、イスラムの戒律に則って処理・製造されたハラル食品などの豊富な品揃えを挙げています。一般的な商品は大手が強いかもしれませんが、「我々はそうした商品以外も提供できる」と、他社との明確な差別化を強調しているのです。専門的な視点から見ても、単なる価格競争ではなく、宗教・文化に根ざした独自のニッチ市場を攻める戦略は非常に賢明だと言えるでしょう。
2010年に創業したブカラパックは、インドネシアで初めて越境通販、つまり国境を越えたネット通販をグローバルに展開したパイオニア企業です。米調査会社CBインサイツによると、その企業価値は約10億ドル(日本円で約1,100億円)にも達し、すでに「ユニコーン企業」(企業価値が10億ドルを超える非上場の新興企業のこと)の仲間入りを果たしているようです。主要な投資家には、米ベンチャーキャピタルの500スタートアップスや、アリババ集団傘下の金融会社であるアント・フィナンシャル、さらにはシンガポール政府系投資会社のGICなど、世界的な有力プレイヤーが名を連ねています。
同社は国内で、約400万店とされる全国の中小企業の商品を取り扱っていますが、このたび越境通販ビジネスを本格化させています。すでにシンガポール、マレーシア、ブルネイ、香港、台湾の5カ国・地域で、ECプラットフォーム「ブカグローバル」を活用したサービスを展開中です。さらに今後は、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などの中東市場への進出を視野に入れ、現地運送業者らと提携し、イスラム教徒向けの特有な商品を販売していく構えを見せています。
急成長するイスラム経済圏とハラル市場の可能性
ブカラパックが中東への進出を急ぐ背景には、イスラム圏の人口が継続的に増加しており、市場の大きな拡大が見込まれる点があります。現在の世界のイスラム教徒人口は世界人口の約4分の1近くを占めつつありますが、2060年までには30億人に到達すると予測されているのです。この巨大な人口基盤とネット通販のさらなる浸透によって、「イスラム経済」は今後、急速に規模を拡大していくと期待されています。
トムソン・ロイターの予測では、世界のイスラム経済は2023年までに約3兆ドルを超えると見込まれており、その成長力は驚くべき水準にあります。特に市場規模の伸びが著しいのが、イスラム教徒にとって不可欠なハラル市場です。2017年に約1兆3000億ドルだったハラル食品市場は、2023年には約1兆8000億ドルへ、また、2017年に約2700億ドルだったイスラム教徒向け衣料品市場も、2023年には約3610億ドルへと、それぞれ飛躍的な成長が見込まれています。このデータからも、ブカラパックがターゲットとする市場の将来性が非常に高いことが分かりますね。
ブカラパックの越境通販戦略は、2014年10月に発足したジョコ政権が推進する自国製品の輸出拡大計画とも軌を一にしており、インドネシア政府の強力な支援を受けている状況だと言われています。ラシード氏も、ジョコ政権の閣僚たちとはすでに良好な関係を築いていることを明かしています。政府の後押しを得られる点は、海外進出を成功させる上で大きなアドバンテージとなるでしょう。
グローバル展開の課題と国内市場の熾烈な競争
しかしながら、この越境通販ビジネスの拡大にはいくつかの課題も存在しています。通関や輸送にかかるコストが増大するため、外国で商品を販売する際の価格が高くなりやすい点が挙げられます。これにより、インドネシア製品が海外の消費者にとって十分な競争力を持ちえない可能性も考慮する必要があるでしょう。国内市場に目を向けても、地場の大手通販会社であるトコペディアや、シンガポールを拠点とするラザダが、顧客や利用店舗の獲得のために大規模な投資を行うなど、ネット通販市場の競争は激しさを増す一方です。
ブカラパックは今後、海外事業の強化を進めていく方針ですが、ラシード氏は「インドネシア市場への注力を緩めるわけではない」と語っています。巨大なイスラム市場をターゲットにしつつも、国内の盤石な基盤を維持していくという、地に足の着いた戦略は非常に合理的だと感じます。2019年6月16日現在、インドネシア発のユニコーン企業が世界の舞台でどのような成長を見せていくのか、今後の展開に大いに期待が高まるでしょう。