版画界の巨匠、平塚運一(ひらつか うんいち)氏が追い求めた芸術の真髄が、今、再び脚光を浴びています。その鍵となるのは、「黒白版画(こくびゃくはんが)」です。これは、墨の色である「黒」と紙の「白」という、究極にシンプルなコントラストだけで構成される表現技法を指します。平塚氏は、この黒と白こそが版画の最も簡潔かつ本質的な魅力を引き出すものだと確信し、その美の探求に生涯を捧げたのでした。
平塚氏が20代半ばから着手したのは、木版画のルーツを突き詰める壮大な研究です。初期の浮世絵から始まり、時をさかのぼり、最終的に行き着いたのが紀元前の「古代瓦(こだいかわら)」でした。粘土に文様を刻んだ型を押し付けて焼き上げる瓦の制作工程は、まさに現代の版画の原型と呼べるものだと氏は見抜きます。この古代瓦や、仏教版画などを研究対象とすることで、平塚氏は版画における「墨摺り(すみずり)」、すなわち黒と白の対比が持つ美的要素こそが、版画の魂であると悟られたのでしょう。
平塚氏は、自身の論考で「版と云うものを最も簡潔に活かし、最も版画らしい版画と云えば、黒と白であって、黒と白から這入って、結局黒と白に達する」と記されています。この言葉から、氏にとって黒白の表現が、単なる技法ではなく、版画芸術そのものに通じる哲学的なテーマであったことが伝わってきます。現代のSNSでも、平塚氏の作品に見られる大胆な黒と、それを際立たせる「余白の美」に感銘を受ける声が多く、「潔い表現に心が洗われる」「究極のミニマリズムだ」といった反響が寄せられていました。
特に、氏の作品を特徴づける上で難題かつ重大であったのが、「余白」、すなわち画面上の「白い空間」をいかに生かすかという点でした。平塚氏は、この余白を単なる空白ではなく、黒によって引き立てられ、緊張感を持つ生きた空間として捉えることで、独自の作風を確立されたのです。古代瓦や、紙に墨を付けて対象の文様を写し取る「拓本(たくほん)」など、その研究資料は数千点にも及ぶといいます。この膨大な研究こそが、平塚運一氏の黒白版画を不朽の名作たらしめている礎であり、私たち現代のクリエイターにも、表現の本質を問う貴重な示唆を与えてくれると確信する次第です。