幻のタマネギ「札幌黄」が100年ぶりに世界へ!クラーク博士の系譜を継ぐ濃厚な甘みの秘密

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

2019年09月21日、札幌市中央卸売市場では伝統野菜「札幌黄(さっぽろき)」の初セリが行われ、輝かしいシーズンの幕開けを迎えました。このタマネギは、私たちが普段口にする北海道産タマネギのルーツであり、加熱することで驚くほど芳醇な甘みが引き出されるのが特徴です。その肉厚な身をじっくりと煮詰めれば、香ばしい香りが食欲をそそり、料理の主役級の存在感を放ちます。

札幌黄の歴史を辿ると、1877年に札幌農学校へ着任したウィリアム・ブルックス博士が米国から持ち込んだ品種にまで遡ります。かつては大正時代にロシアやフィリピンへ輸出されるほどの人気を博しましたが、1970年代以降は「F1種(一代交配種)」と呼ばれる、病気に強く形が均一な近代品種に押され、一時は生産農家がわずか10戸にまで激減する絶滅の危機に瀕していました。

ここで専門用語の解説ですが、現代の主流である「F1種」とは、異なる性質を掛け合わせ、1代目だけ優れた特徴が出るようにした、いわば「エリート野菜」です。対して札幌黄は、代々同じ性質を受け継ぐ「固定種」という区分に属します。固定種は形が不揃いになりやすく栽培に手間がかかりますが、その土地ならではの深い味わいが宿るという、まさに地域の宝物と言える存在なのです。

SNS上でもこの「幻のタマネギ」への関心は高く、「一度食べたら普通のタマネギに戻れない」「加熱した時の飴色の輝きが違う」といった熱烈なファンの声が散見されます。この復活劇を支えたのは、札幌市内で「ブルックスカレー」を運営する土居賢太郎社長の情熱でした。彼は2010年の創業以来、一皿に3玉分もの札幌黄を贅沢に使用したカレーを提供し、その魅力を発信し続けています。

土居社長の情熱は本物でした。100年以上続く農家の5代目、坂東達雄さんのもとへ1年間毎日通い詰め、ようやく仕入れの許しを得たというエピソードは、もはや伝説と言っても過言ではありません。2019年現在の作付面積は約15ヘクタールと、10年前の1.5倍にまで回復しました。不揃いな形という弱点も、みじん切りにして冷凍保管するという工夫で見事に克服されています。

さらに素晴らしいことに、2012年には「札幌黄ふぁんくらぶ」が発足し、消費者によるオーナー制度も定着しました。そして2018年09月には、台湾の百貨店への出店を果たし、実に約100年ぶりとなる海外進出を実現させています。効率重視の現代において、手間を惜しまず伝統を守り抜く生産者と、それを支える料理人の姿には、食文化の真髄があると感じてやみません。

私は、こうした「不揃いだけれど美味」という多様性こそが、これからの食の豊かさを象徴すると確信しています。規格化された野菜は便利ですが、札幌黄のように物語を持つ食材は、私たちの心まで満たしてくれます。2019年、この伝統野菜が再び世界へ羽ばたき始めたことは、地域ブランドの再生における一つの理想的なモデルケースとなるのではないでしょうか。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*