世界を股にかける多国籍企業と、国の財源を守る国税当局。両者の間で、今まさに歴史的な地殻変動が起きています。2019年6月28日、東京地裁は音楽大手「ユニバーサルミュージック合同会社」の税務処理を巡り、国税側の処分を取り消す画期的な判決を下しました。このニュースはSNSでも「企業の正当な節税が認められた」「国税の暴走に歯止めがかかった」と大きな反響を呼んでいます。
争点となったのは、法人税法132条という規定です。これは、企業が税金を減らすためだけに行った不自然な取引を、国税側が「なかったこと」にして課税できる強力な武器で、業界では「伝家の宝刀」と恐れられてきました。しかし、今回の判決はこの宝刀の切れ味を鋭く制限する内容となっており、今後の企業のグループ経営や組織再編のあり方を根本から変えてしまう可能性を秘めているのです。
181億円の申告漏れ指摘から一転、企業の「経済合理性」が認められた理由
騒動の始まりは、ユニバーサル社がグループ内の組織再編に際し、海外の関連会社から約866億円もの巨額の借り入れを行ったことでした。同社はこの利息を「損金」、つまり経費として計上することで税負担を軽くしようと試みました。これに対し東京国税局は、「日本での音楽事業に変化がないのに利息だけ払うのは不自然だ」と一喝。2012年12月期までの5年間で約181億円の申告漏れを指摘し、約58億円の追徴課税を行ったのです。
しかし、東京地裁の清水知恵子裁判長は、この国税側のロジックに「待った」をかけました。判決では、たとえグループ企業間でしか成立しないような特殊な取引であっても、そこに事業上の目的や理由が少しでも認められれば、直ちに「不当」とは言えないという判断が示されています。これは、企業のグローバルな資金管理や経営効率化の努力を、単なる「税逃れ」と一蹴させないための、非常に現代的な解釈であると私は考えます。
「伝家の宝刀」が「竹光」に?揺らぐ国税当局の権威と控訴審の行方
かつて「日本IBM訴訟」では、グループ内の損失を利用した税対策が厳しく問われ、国税側が有利な解釈を勝ち取った経緯がありました。当時は「グループ会社だからこそできる不自然な取引」には広い網がかけられていたのです。ところが、今回の判決はその網をぐっと狭め、「税金を減らす目的以外に全く意味がない場合に限って」規定を適用すべきだと釘を刺しました。これには専門家からも「画期的だ」と驚きの声が上がっています。
一方で、国税当局の幹部は「これでは宝刀が(形ばかりの)竹光になってしまう」と強い危機感を募らせています。最近ではソフトバンクグループの巨額譲渡損についても、この規定の適用が見送られるなど、当局の慎重な姿勢が目立っていました。もしこのまま企業側の勝訴が確定すれば、国税の徴税権力は大きく後退するでしょう。2019年9月23日現在、戦いの舞台は控訴審へと移りますが、その結論は日本経済全体の活力をも左右することになりそうです。