【2019年10月開始】幼児教育・保育無償化の光と影。待機児童問題と「保育の質」を守るための大胆提言とは?

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2019年10月1日から、いよいよ「幼児教育・保育の無償化」がスタートします。3歳から5歳の子どもたちは全世帯で、0歳から2歳については住民税非課税世帯を対象に利用料が無料になるという、子育て世代には一見喜ばしいニュースです。しかし、京都大学の柴田悠准教授は、この制度がもたらす光と影を冷静に分析し、現状のままでは「保育の質」が崩壊しかねないと警鐘を鳴らしています。

SNS上では「家計が助かる!」という期待の声が上がる一方で、現役の保育士や都市部の保護者からは「これ以上詰め込まれたら現場が回らない」「入りたくても入れない待機児童はどうなるのか」といった切実な不安が噴出しています。特に懸念されているのが、無償化によって保育への需要が爆発的に増え、すでに限界に近い都市部の保育環境がさらに悪化することです。政府は2020年度末までに32万人分の定員を増やす計画ですが、潜在的な需要を含めると、2023年には28万人分も不足するという試算すら存在します。

地方での虐待予防と女性活躍には大きな意義

もちろん、この制度には確かな意義も存在します。柴田准教授がまず挙げるのは、地方における「児童虐待の予防」です。虐待や不適切な養育(マルトリートメント)は、幼い子どもの脳の発達に深刻な悪影響を及ぼしますが、保育所に通うことで家庭の孤立を防ぎ、子どもの健全な発達を促す効果が研究で証明されています。定員に余裕がある地域では、無償化によって経済的に苦しい家庭も利用しやすくなり、セーフティネットとしての機能が強化されるでしょう。

また、人手不足に悩む地方都市においては、女性の社会進出を後押しする起爆剤になるかもしれません。保育料の負担がなくなることで、「働きたいけれど保育料を考えると足が出る」と二の足を踏んでいた母親たちが職場復帰しやすくなるからです。実際に、自治体へのアンケートでは約8割が「利用希望者が増える」と回答しており、これが労働力不足の解消につながるという期待感は根強くあります。しかし、ここには大きな落とし穴が隠されています。

「詰め込み保育」が招く子どもの発達へのリスク

最大の問題は、保育の「質」の低下です。待機児童が増えると、政府は自治体に対して「国の基準ギリギリまで児童を受け入れるよう」圧力を強める可能性があります。日本の配置基準、つまり1人の保育士が担当する子どもの数は、3歳以上において先進国の中で最低レベルです。例えば、3歳児20人を1人の保育士が担当するという現状は、欧米諸国と比較しても極めて過酷な環境と言わざるを得ません。ここにさらなる「詰め込み」が行われれば、現場の疲弊は計り知れないものになります。

国際的な研究によれば、質の低い保育環境で過ごすことは、子どもの知的能力やコミュニケーション能力などの「非認知能力」の発達を阻害する恐れがあることが分かっています。良かれと思って始めた無償化が、結果として子どもたちの成長にマイナスの影響を与えてしまっては本末転倒です。私は、単に「タダにする」ことよりも、保育士の待遇改善や配置基準の見直しに予算を投じ、子どもたちが安心して過ごせる空間を確保することこそが、真の少子化対策だと考えます。

持続可能な制度への修正:所得制限と上限額の検討を

柴田准教授は、この危機を乗り越えるための現実的な処方箋として、制度の「修正」を提案しています。具体的には、3歳から5歳の無償化に月額2万5700円の上限を設けたり、所得制限を導入したりすることで、浮いた財源を保育士の給与アップや労働環境の改善に充てるという案です。これにより、約2000億円から7000億円規模の予算を捻出できる計算になります。すべての世帯を無理に無償化するのではなく、支援が必要な層に手厚く配分する柔軟さが必要です。

また、子育て世代が最も負担に感じているのは、実は保育料よりもその後の「大学などの高等教育費」であるという調査結果もあります。目先の無償化に固執するあまり、教育の根幹である保育の現場を壊してしまっては未来がありません。政府は、2019年9月23日現在の議論を真摯に受け止め、数値目標の達成だけでなく「子どもの笑顔」を守れる制度設計へと舵を切るべきではないでしょうか。現場の声に耳を傾け、質と量のバランスを保つ勇気が今、求められています。

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