2019年10月01日の消費税率引き上げを目前に控え、アパレル業界では各社の対応が真っ二つに分かれています。業界の王者であるユニクロは、2%の増税分をそのまま販売価格に上乗せする「価格転嫁」を選択しました。一方で、しまむらやH&Mなどは増税後も店頭価格を変えない「実質値下げ」を断行し、お得感を演出する構えです。消費者の財布の紐が固くなるなか、ブランドの真価が問われる局面を迎えています。
ユニクロや姉妹ブランドのGUを運営するファーストリテイリングは、現在「本体価格+税」という表記を採用しています。2019年10月以降も本体価格を維持するため、レジでの支払額は単純に2%増える仕組みです。前回の増税時は自社で負担を吸収しましたが、国内事業が7年連続で増収となるなど好調な背景があり、今回はブランド力への自信が垣間見える強気の決断を下したといえるでしょう。
しかし、単に値上げを受け入れるだけではありません。ユニクロは2019年09月26日までの期間限定で、駆け込み需要を狙った大規模な値下げセールを実施しています。人気の「ワイヤレスブラ」や機能性インナーの「エアリズム」を対象に、まとめ買いによる割引を提案するなど、増税前のラストスパートに余念がありません。SNSでは「今のうちに冬物も買っておこう」といった、賢い消費者の声が目立っています。
対照的に、多くの競合他社は「負のスパイラル」への恐怖を隠せません。これは、物価上昇が買い控えを招き、さらに景気が冷え込む悪循環を指します。しまむらは2014年の増税時と同様に、増税分を自社で飲み込み価格を据え置く方針です。作業服から一般向けファッションまで席巻するワークマンも、売上の柱であるプライベートブランド(PB)の価格を維持し、徹底して庶民の味方であることを強調しています。
外資系大手のH&Mジャパンも、ルーカス・セイファート社長が「日本の消費者は価格に非常に敏感だ」と語る通り、実質的な値下げで対抗します。私は、この戦略こそが今の日本市場におけるリアルな生存戦略だと感じます。ユニクロのような圧倒的なブランドロイヤリティ(顧客が特定のブランドに対して抱く忠誠心)がない限り、2%の差は顧客離れを直撃する致命傷になりかねないからです。
デパートやセレクトショップは前倒しセールで勝負
高価格帯を扱う百貨店では、季節を先取りした戦略が加速しています。高島屋日本橋店では、例年より1カ月も早くダウンコートの販売を開始しました。小田急百貨店新宿店も、通常10月開催の「紳士服大市」を2019年09月に前倒しするなど、増税前の「駆け込み需要」を確実に取り込もうと必死です。大きな買い物ほど、2%の差が数千円単位の差となって跳ね返ってくるため、消費者の動きも非常に敏感です。
セレクトショップも独自の工夫を凝らしています。ビームスは2019年09月中に一定額以上を購入した方へ、10月から使える商品券を配布しています。またベイクルーズも1割引きセールに加え、ポイントを通常の2倍付与するキャンペーンを展開中です。これらは単なる値引きではなく、増税後に予想される「消費の冷え込み」を未然に防ぎ、リピーターを確保するための高度な囲い込み戦略といえるでしょう。
ネット上の反応を見ると、「たかが2%、されど2%」という切実な意見が多く、家計への影響を懸念するムードが漂っています。クリスマスや年末商戦という明るい材料はあるものの、衣料品全体の売れ行きが芳しくない現状では、増税後の数カ月が各社の命運を分けるでしょう。各社が打ち出した「価格の知恵比べ」が、果たして消費者の心にどう響くのか、その審判が下される日はすぐそこまで来ています。