1980年代から90年代にかけて、エンターテインメント業界を騒がせた「名古屋飛ばし」という言葉を覚えているでしょうか。かつては集客力の不安から大物アーティストに敬遠された名古屋ですが、2019年9月25日現在、全く異なる理由でこの現象が再燃しています。現代の「名古屋飛ばし」は、呼びたくても呼べない、物理的なハコ不足が原因なのです。
SNS上では「推しのライブが名古屋だけない」「地元のホールがどんどんなくなっている」と嘆く声が溢れています。ファンの間では、名古屋公演の落選を恐れる切実な投稿も目立ち、文化的な空洞化を危惧する意見が広がっています。かつての新幹線停車問題とは一線を画す、深刻な「劇場閉鎖ラッシュ」が、名古屋の街から活気を奪おうとしています。
2018年までの10年間を振り返ると、名古屋市内では中大規模のホールが相次いで姿を消しました。旧厚生年金会館や旧勤労会館、さらには名鉄ホールや中日劇場といった、市民に親しまれた象徴的な劇場が次々と閉館したのです。その結果、2007年度と比較して市内の主要な座席数は4割近くも減少するという、異常事態に陥っています。
争奪戦は激化の一途!100%近い稼働率が示す「予約の壁」
会場が減れば、当然ながら残された施設に予約が殺到します。名古屋市が管理する市民会館では、2018年度の利用率が99%という驚異的な数字を記録しました。かつては抽選に外れた際のバックアップを検討する余裕もありましたが、現在は一発勝負の激戦状態です。プロモーターからは「抽選倍率が以前より遥かに高くなった」と悲鳴が上がっています。
ここで言う「プロモーター」とは、アーティストの公演を企画し、会場手配や宣伝を行う興行主のことです。彼らにとって名古屋は魅力的な市場ですが、器がなければビジネスは成立しません。代替施設として、2010年に誕生した刈谷市総合文化センターなどの近隣都市のホールが注目されていますが、こちらも高い利用率を維持しており、受け皿としての限界が見え始めています。
私は、この状況を単なる「施設不足」として片付けるべきではないと考えます。文化の発信地である劇場が失われることは、都市のブランド力低下に直結するからです。名古屋飛ばしが定着してしまえば、若者の流出や経済損失を招く恐れがあります。行政には、利便性の高い都心部でのスピーディーな劇場整備と、最先端の音響設備の導入を強く期待したいところです。
幸いなことに、名古屋市は市民会館の移転新築を含めた議論を2019年現在進めています。最新の音響設備や、誰もが利用しやすいバリアフリー機能の充実は、より多様なアーティストを呼び込む鍵となるでしょう。名古屋が再び「エンタメの聖地」として返り咲くために、今まさに官民一体となったインフラの再構築が求められています。