広島港から高速船に揺られること約20分。穏やかな瀬戸内海に浮かぶ江田島には、かつて日本海軍の中核を担う若きエリートたちを世に送り出し続けた「海軍兵学校」が存在しました。2019年09月27日現在、この場所は海上自衛隊の幹部候補生学校としてその伝統を今に伝えています。観光専用の施設ではありませんが、決まった時間に実施される見学会を通じて、歴史の重みに触れることができる特別なスポットとして注目を集めているのです。
SNS上では、この地を訪れた人々から「背筋が伸びる思いがした」「歴史の教科書では学べない感情が湧いてくる」といった声が多く寄せられています。最初に案内される1917年大正06年に建築された大講堂は、約2000人を収容可能な圧倒的な広さを誇ります。特筆すべきは、壁一面に施された厚い御影石の音響効果でしょう。マイクを一切使わずとも、話し手の声が隅々まで明瞭に響き渡る構造は、当時の建築技術の粋を集めた結晶と言えます。
映画のロケ地としても名高い赤レンガの「生徒館」と、精神を研ぎ澄ます「教育参考館」
続いて視界に飛び込んでくるのは、1893年明治26年に建てられた赤レンガ造りの「生徒館」です。旧兵学校の象徴とも言えるこの建物には、144メートルにも及ぶ直線の中廊下があり、その美しさから映画やドラマの撮影場所としても頻繁に活用されています。こうした歴史的建造物の多くが、現在も自衛隊の教育現場として「現役」で使われている点に、この場所ならではの独特な緊張感と魅力が詰まっているのではないでしょうか。
見学者の心に最も深い爪痕を残すのが、1936年昭和11年に竣工したギリシャ神殿風の「教育参考館」です。館内には海軍創設期から終戦に至るまで、約1000点もの貴重な資料が展示されています。東郷平八郎や山本五十六といった歴代の元帥たちの遺髪が納められた展示室からは、彼らが当時の日本においていかに超越した存在であったかが伺えます。しかし、本当の衝撃はその先に待っている名もなき若者たちの記録にあります。
展示の終盤、空気は一変して厳粛なものへと変わるでしょう。そこには「神風特攻隊」として散っていった、わずか10代から20代前半の若者たちが残した遺書が並んでいます。「神風特攻隊」とは、爆弾を積んだ航空機で敵艦に体当たりを試みた決死の特別攻撃隊のことです。彼らが死を目前に控え、震える手で「父上、母上」と書き記した家族への想い。その達筆な文字を前に、多くの見学者が言葉を失い、戦争の残酷さと平和の価値を噛み締めています。
かつて入試倍率が20倍から50倍に達した超難関校での学びは、現代の海上自衛隊員たちにも「五省」という形で継承されています。五省とは、一日の終わりに「至誠にもとるなかりしか(真心に欠けるところはなかったか)」など、自らの行動を5つの項目で省みる自省の言葉です。こうしたストイックな精神性が、今も若者たちの心を形作っている様子には感銘を受けます。単なる観光に留まらず、自身の生き方を見つめ直すきっかけをくれるはずです。
心揺さぶられる見学の後は、レストランで名物の「江田島海軍カレー」を堪能してみてはいかがでしょうか。さらに足を延ばして呉港へ渡れば、戦艦大和の歴史を伝える「大和ミュージアム」や、巨大な本物の潜水艦を体感できる「てつのくじら館」など、歴史の旅を深める周遊ルートも充実しています。2019年09月27日の今、改めてこの島を訪れ、私たちの歩んできた道を再確認することには大きな意義があると感じます。