2019年の夏競馬を熱狂させたサマースプリントシリーズは、圧倒的なパフォーマンスを見せたタワーオブロンドンが王者の座に輝きました。特に最終戦となった2019年9月8日のセントウルステークスでは、従来の記録を0秒4も塗り替える1分6秒7という驚異的なレコードタイムを叩き出しています。このタイムは、かつての名牝ビリーヴが保持していた歴史的記録を更新するものであり、競馬ファンの間でも「短距離界の勢力図が塗り替わった」と大きな話題を呼びました。
過去のデータに目を向けると、阪神競馬場の芝1200メートルを1分7秒1以内で駆け抜けた快速馬は、これまでにわずか3頭しか存在しません。そのうち、ビリーヴとファインニードルの2頭が後にG1を2勝している事実は、タワーオブロンドンのポテンシャルの高さを雄弁に物語っています。2歳時にはマイルのG1である朝日杯フューチュリティステークスで3着に入った実績もあり、スプリント戦という舞台であれば、G1のタイトルを奪取する力は十分すぎるほど備わっていると言えるでしょう。
しかし、栄光の影には無視できない懸念材料が潜んでいるのも事実です。2006年に創設されたサマースプリントシリーズですが、その歴代王者が同年のスプリンターズステークスを制した例は一度もありません。過去12頭が挑戦して2着が最高という「ジンクス」は、激戦を戦い抜いた後の疲労がいかに深刻かを物語っています。今回のタワーオブロンドンもタイトなスケジュールでの連戦となるため、SNS上では「状態面が維持できているのか」「上積みは期待できないのではないか」といった慎重な意見も目立ちます。
無敗の連対率を誇る3歳牝馬ディアンドルの真価
そこで私が注目したいのが、底知れぬ魅力を秘めた3歳牝馬のディアンドルです。彼女の戦績は極めて個性的で、デビューから現在に至るまで全7戦を芝1200メートルの電撃戦のみに捧げ、5勝2着2回という驚異的な「連対率(2着以内に入る確率)100%」を維持しています。生粋のスプリンターとしての血が騒ぐのか、迷いのないローテーションからは陣営の強い自信が伝わってきますし、近年の競馬界を席巻する「強い牝馬」の系譜を継ぐ存在として期待が高まります。
初めて古馬(4歳以上の成熟した馬)と刃を交えた2019年8月18日の北九州記念は、まさに彼女の真骨頂と言える内容でした。スタートで後手を踏む不利がありながらも、瞬時に加速して好位に取り付く機動力を見せ、前半600メートルを32秒7という超ハイペースで飛ばす過酷な流れを2着に粘り込んでいます。この「ハイペース適性」は、G1という極限の舞台でこそ最大の武器になるはずです。タワーオブロンドンが疲労に泣く隙を突くのは、勢いに乗るこの乙女かもしれません。
私の見解としては、実績のタワーオブロンドンを認めつつも、鮮度と勢いで勝るディアンドルに軍配を上げたいと考えています。競馬には「夏は牝馬」という格言がありますが、秋の入り口でもその勢いは衰えないでしょう。疲労の蓄積が懸念される1番人気馬よりも、短距離特化型の若き才能が、秋のG1戦線に新たな風を吹き込む瞬間を目撃できるのではないでしょうか。SNSでの盛り上がりを見ても、多くのファンがこの世代交代の可能性に胸を躍らせているようです。