サウジアラビアの石油施設が攻撃を受けるという衝撃的な事件を経て、国際社会の視線はイランの動向に釘付けとなっています。2019年9月25日、ニューヨークで開催された国連総会の一般討論演説において、イランのロウハニ大統領は米国に対して極めて強硬な姿勢を打ち出しました。米国が求める新たな交渉に対し、「まずは制裁を解除することが先決だ」と言い切ったのです。
この発言の背景には、イラン国内の複雑な政治事情が影を落としています。穏健派とされるロウハニ大統領ですが、実は訪米前から国内の保守強硬派、特に最高指導者ハメネイ師らからの激しい突き上げに直面していました。ハメネイ師は2019年9月26日、米国の制裁に同調し始めた欧州諸国を「言葉が空虚で信用に値しない」と一蹴し、融和的な態度は裏切りであるかのような圧力をかけました。
こうした中、SNSでは「中東の平和が遠のくばかりだ」「ガソリン代が上がりそうで怖い」といった悲鳴に近い声や、「トランプ政権の圧力はどこまで続くのか」という懸念が広がっています。英仏独の3カ国は、2015年に結ばれた核合意にミサイル開発の抑制を加える新しい枠組みを提案しましたが、これも2019年9月25日にハタミ国防軍需相によって即座に拒否されました。事態は袋小路に入っています。
「核合意」崩壊の危機とトランプ大統領の揺らぎ
そもそも「核合意」とは、イランが核兵器の開発を制限する代わりに、国際社会が経済制裁を解除するという約束事でした。しかし、2018年に米国が一方的に離脱したことで、この天秤は大きく狂い始めています。イラン側も報復としてウラン濃縮度の引き上げを宣言しており、2019年11月上旬には第4弾となる履行義務の停止、つまり合意のさらなる無視を強行する構えを見せているのです。
トランプ大統領は、かつて北朝鮮の金正恩委員長とトップ会談を実現させた成功体験をイランにも適用しようとしています。しかし、ロウハニ大統領は「首脳会談はパフォーマンスではない」と一蹴しました。イラン側は、トランプ氏が2020年の米大統領選挙を前に軍事衝突を避けたいという本音を見透かしており、あえて挑発的な態度を強めることで、米国の揺さぶりを狙っていると考えられます。
編集者の視点から見れば、この対立はもはや「正義のぶつかり合い」ではなく、互いのメンツと生存をかけた高度な心理戦の様相を呈しています。2019年9月14日の石油施設攻撃により、世界の石油生産の6%が一時停止した事態は、一国の問題が瞬時に世界経済を破壊し得ることを証明しました。米政府は中国企業などへ追加制裁を課していますが、経済的な締め付けだけでは解決の糸口は見えてきません。
今まさに中東で起きているのは、計算違いや偶発的な衝突がいつ戦争へと発展してもおかしくないという「薄氷の外交」です。2019年9月27日現在の状況を鑑みれば、危機は長期化する可能性が極めて高いでしょう。双方が戦争を望んでいないとしても、振り上げた拳を下ろす場所が見つからない現状は、国際社会全体にとってあまりに大きなリスクを孕んでいると言わざるを得ません。