2018年7月23日に埼玉県熊谷市で観測史上最高となる41.1度という驚異的な気温を記録した猛暑について、その発生メカニズムを筑波大学の日下博幸教授(気象学)と大学院生の西暁史さんが詳細に分析され、2019年6月17日にその衝撃的な結果が判明しました。この尋常ではない暑さは、日本海から流れ込む空気が山地を越える際に発生する「フェーン現象」による温度上昇と、日照によって熱を蓄えた山肌からの熱吸収という、二つの強力な要因が重なり合った結果生じたというのです。単なるフェーン現象だけでは説明しきれないこの複合要因こそ、記録的な猛暑の正体であったと言えるでしょう。
この分析は、当時の大気の状態をコンピューター上で精密に再現することによって行われました。まず、当時の気圧配置は、太平洋高気圧が西日本を中心に張り出し、その縁を回るようにして関東へ北西の風が流入するという特徴的なものでした。この風が山地を越える際に発生したのが、降水を伴わないタイプの「力学フェーン」です。フェーン現象とは、気流が山を越えて吹き下りる際、風下側で高温になる現象ですが、特に「力学フェーン」は、高度が高く気圧の低い空気が下降する際に、周囲の高い気圧で圧縮されること(断熱圧縮)によって温度が上昇するメカニズムで起こります。分析の結果、この空気は日本海上の高度2〜3キロメートルという比較的高い位置からやってきたことが明らかになっています。
しかし、高熱をもたらしたのはこれだけではありませんでした。重要なのが、山肌の状態です。この時、山地では数日前から雨が降っていなかったため、山肌は乾燥し、太陽の熱を非常に蓄えやすい状態になっていました。日本海から吹き下ろす空気は、力学フェーンで温度が上昇していたにもかかわらず、さらにこの乾燥した山肌の熱をも吸収してしまい、一段と高温化して関東平野に流れ込んだのです。SNSでは、この記録的な暑さに対して、熊谷市民が「さすが!俺たちの熊谷だぜ!!」と誇りに感じる一方で、「砂漠の気温」だと悲鳴を上げる投稿も見受けられ、当時の人々の驚きと戸惑いが伝わってきますね。
この極めて熱い風は、東京湾から内陸へと向かう比較的涼しい海風の流入を阻止する、防波堤のような役割も果たしました。これにより、海風による冷却効果が得られず、内陸部の気温はさらに押し上げられることになったのです。これは、もはやフェーン現象と山肌加熱、海風ブロックの「三位一体」による熱攻撃と言っても過言ではないでしょう。また、日下教授らの分析では、2007年8月16日に熊谷市で40.9度を観測した際にも、同様に力学フェーンと山肌からの加熱が影響していたことが分かっています。
日下教授は、「太平洋高気圧の**『クジラの尾』**のような特徴的な気圧配置のもとで、晴天が連続した日は『高温のチャンピオン』となる資格がある。特に暑い日は、力学フェーンと山肌の加熱という二つの要因が同時に起きている」と指摘されています。この知見は、今後、記録的な猛暑を予測するための非常に重要な手がかりとなるでしょう。私見ですが、この分析が示すのは、単なる気象現象だけでなく、山地の乾燥度といった地表面の状態まで考慮に入れる必要があるということです。都市の熱対策はもちろん、山地の植生管理や保水能力の維持も、猛暑対策として再評価すべき時期に来ているのではないでしょうか。この「二重の熱攻撃」のメカニズムを理解し、今後の熱中症対策や防災意識を高めていくことが求められます。