2019年9月14日に発生したサウジアラビアの石油施設への攻撃は、世界のエネルギー市場に激震を走らせました。この事態を受けて、これまで低迷していた石化製品の価格が一転して上昇の兆しを見せています。しかし、アジア市場の足元を冷静に見渡すと、手放しで高騰が続くとは言い切れない複雑な事情が浮かび上がってくるでしょう。
事件前のアジア市場では、プラスチックの原料となる「合成樹脂」の在庫が余り、価格が下落する「供給過剰」の状態が続いていました。2019年8月初旬、米国が対中制裁関税の第4弾を表明したことで、世界最大の消費国である中国の景気後退懸念が加速。中国側も対抗措置を取り、人民元安が進んだことで、買い控えの動きが顕著になったのです。
総合商社の担当者からは、中国国内のポリエチレン価格が大幅に下落し、先行きへの不透明感がかつてないほど強まっているとの声が上がっています。ポリエチレンとは、レジ袋や容器に使われる最も身近な合成樹脂ですが、その価格決定権を握る中国の需要減退は、アジア全体の市況を押し下げる大きな重石となっているのが現状です。
供給面でも、米国産の勢いが止まりません。シェールガスを原料とした安価なポリエチレンの輸出は、2019年7月時点で月間約97万5000トンに達しました。2017年頃までは月50万トン前後だったことを踏まえると、わずか数年で供給量が倍増しており、そのうち約3割がアジア市場へ流れ込んでいるという驚きのデータも示されています。
さらに、韓国やマレーシアでは最新の石化プラント(大規模な生産工場)が次々と稼働を開始しており、中国国内でも新設ラッシュが続いています。SNS上では「サウジの供給停止で一時は上がるだろうが、結局は作りすぎではないか」といった冷静な分析も目立ち始めており、一時的なパニック買いが収まれば、再び需給は緩むと予想されます。
国内価格への影響と今後の展望
サウジアラビアからの輸出回復に遅れが生じたとしても、アジア域内での「物余り」の状態が解消されるには至らないでしょう。そのため、石化製品の価格上昇は短期的な現象に留まるとの見方が有力です。専門家も、中長期的なトレンドとしては、依然として供給過剰による価格の軟調さが続くと分析しているようです。
一方、日本国内の取引に目を向けると、アジアの市況とは少し異なる動きを見せています。国内のポリエチレンやポリプロピレンの価格は、輸入原料である「ナフサ」の円建て価格を基準に交渉されるのが一般的です。ナフサとは原油を蒸留して得られる中間製品で、石化製品のいわば「種」となる重要な液体燃料を指します。
国内各社は2019年4月から5月にかけて製品の値上げを打ち出しましたが、現時点でのナフサ価格は当時の想定を下回る水準で推移しています。このように独自の価格体系を持つ日本では、アジア市場の混乱が直接波及する可能性は低いでしょう。私は、今こそ企業側が目先の相場に惑わされず、安定供給の体制を再考すべきだと考えます。
供給過剰という構造的な問題は、短期間で解決するものではありません。サウジ情勢という突発的なニュースに過剰反応せず、中国の景気動向や米国の輸出攻勢を注視することが、今後の市場を読み解く鍵となるはずです。編集部としても、この「需要と供給の綱引き」が私たちの生活用品の価格にどう影響するか、引き続き追跡してまいります。