2019年10月1日の消費税率引き上げが目前に迫り、日本中がこの大きな転換点に揺れています。SNS上では「生活が苦しくなる」「増税分は法人税減税の穴埋めではないか」といった厳しい声が後を絶ちません。しかし、感情的な反対論や、単なる損得勘定だけでこの問題を片付けてしまうのは、あまりにも早計と言えるのではないでしょうか。慶応義塾大学の井手英策教授は、現代の税制論議が「増税か、軽減税率か」という狭い二項対立に陥っている現状に警鐘を鳴らしています。
消費税には、所得が低い人ほど負担感が増す「逆進性」という性質があるのは事実です。これは、日々の食費や消耗品など、生きるために必要な支出の割合が低所得者ほど高いため、税率が一律だと負担が重くのしかかる現象を指します。ですが、ここで視点を変えてみましょう。実は、贅沢品を購入する富裕層の方が、支払う税金の「実額」は圧倒的に多いのです。この集まった莫大な税収を、どのように社会へ還元し、給付として分配するかが、格差是正の鍵を握っているといっても過言ではありません。
北欧モデルに学ぶ「全世代型」へのパラダイムシフト
格差の少ない社会を実現している北欧諸国では、低所得層だけにターゲットを絞った給付は行っていません。なぜなら、中高所得層を「負担するだけの人」にしてしまうと、納税への強い抵抗感が生まれ、結果として再分配の財源が枯渇してしまうからです。そこで、医療や教育、介護といったサービスを所得制限なしに広く提供することで、誰もが「恩恵を受けている」と実感できる仕組みを構築しています。2019年現在、安倍政権が進める幼児教育・保育の無償化も、実はこの「全世代型」への歴史的な一歩なのです。
もちろん、全ての課題が解決するわけではありません。子育てに関わりのない単身世帯や、すでに利用料が減免されている低所得層にとっては、増税の痛みだけが目立つ形となります。こうした歪みを解消するために、井手教授は「住宅手当」の新設を提唱されています。日本には先進国で珍しく公的な家賃補助がありません。富裕層も恩恵を受けてしまう軽減税率に予算を割くよりも、ダイレクトに住居費をサポートする方が、低所得層の生活を守るための極めて合理的な手段となるはずです。
不信の壁を越えて、私たちはどのような「未来」を構築すべきか
議論を阻む最大の壁は、政府に対する根深い不信感でしょう。ネット上では「税金が防衛費に流用されている」との批判が飛び交いますが、本来、消費税は法律で使い道が社会保障等に限定された「目的税」です。むしろ、使い道の自由度が高い所得税や法人税の方が流用のリスクを孕んでいるという事実は、意外と知られていない側面かもしれません。感情的な議論を超えて、将来の老後不安や教育費負担をどう分かち合うかという、本質的な対話が今こそ求められているのではないでしょうか。
私は、税金とは単なる「取られるお金」ではなく、私たちが不運に見舞われた際でも自由を失わないための「社会的な共同戦線」であると考えます。借金に頼るばらまきは、次世代への無責任なツケ回しであり、社会的な連帯の放棄に他なりません。増税という痛みを伴う決断を、私たちの暮らしを支え合う「安心の土台」へと昇華させられるか。2019年9月27日という今この瞬間、私たちは単なる納税者としてではなく、未来を構想する当事者としての意志を問われているのです。