東北の港がいま、空前のクルーズ船ブームに沸いています。東北地方整備局の発表によると、2019年には12の港に合計93隻もの客船が寄港する見通しで、これは2018年の80隻を塗り替える過去最高の記録です。なかでも熱い視線を集めているのが秋田港でしょう。ここでは貨物線を旅客用に活用するという画期的な試みが行われており、内陸部への観光波及を狙う「鉄道輸送」が大きな武器となっています。
秋田港のおもてなしを象徴するのが、2018年4月にオープンした旅客ターミナルと、同年度から本格始動した「クルーズ列車」の存在です。この列車は、秋田港駅から秋田駅までの約8.9キロメートルをわずか15分ほどで結びます。4両編成で最大200人を一度に運べる能力は、大型観光バス5台分に相当する圧倒的なパワーを誇ります。まさに、数千人が一斉に下船する大型客船時代における「大量輸送の切り札」といえる存在ですね。
運行実績も着実に積み上がっています。2018年度は12日間で91本を運行し、約5000人の乗客を運びました。2019年度はさらに規模を拡大し、20日間で110本の運転が計画されています。大型客船の増加に伴い、その需要は前年比で4割増という勢いです。2018年度には五能線や奥羽本線の十文字駅まで直接乗り入れるなど、乗り換えなしで秋田の名所へ誘うネットワークの広がりも、鉄道ならではの魅力といえるでしょう。
インバウンド客への浸透と「船内プロモーション」の壁
しかし、素晴らしいポテンシャルを持つクルーズ列車ですが、外国人観光客への認知度にはまだ課題が残っています。2019年9月7日に寄港した「アザマラ・クエスト」の乗客に話を聞くと、多くの人が船会社の用意した無料バスを選んでいました。鉄道の定時性や情緒よりも、目の前にある「無料」や「頻繁な運行」という利便性が優先されているのが現状です。せっかくの専用列車も、その存在が届かなければ宝の持ち腐れになってしまいます。
背景には、船会社との複雑な関係も透けて見えます。JR東日本秋田支社によれば、一部の船会社は自前で有料シャトルバスを運行し、収益を得ているケースがあるそうです。そうなると、競合となる「クルーズ列車」を船内で積極的に宣伝してもらうのは難しくなります。こうしたビジネス上のハードルをどう乗り越え、いかにして個人客に列車の旅を選んでもらうか。これは単なる輸送の問題ではなく、高度なマーケティング戦略が求められる局面です。
さらに、ターミナル内での「おもてなし」もブラッシュアップの余地があります。例えば「インバウンド(訪日外国人旅行者)」にとって、日本語のみのパッケージは大きな壁です。米国人観光客からは「英語の説明がないと、何の商品か分からない」という切実な声も上がっています。伝統的なお菓子一つをとっても、その背景や味の想像がつく丁寧な多言語表記があるだけで、購買意欲は劇的に変わるはずです。細やかな配慮が、地域経済への実利を生むのです。
専門家も、秋田港のポテンシャルを高く評価しつつ、ターゲットに合わせた品揃えやSNS等による発信強化を提言しています。2019年の寄港数は過去最高の22隻に達し、2020年も大型船の予約が相次いでいます。私は、この「鉄道×クルーズ」という秋田独自のモデルこそ、地方創生のロールモデルになると信じています。単に運ぶだけでなく、列車の旅そのものを「日本文化体験」へと昇華させる工夫こそが、今後の勝機を分けるのではないでしょうか。