2019年6月17日、高等教育のあり方について、文部科学大臣の柴山昌彦氏が熱い思いを語りました。経済界からは「大学改革が進まない」という不満が高まる一方で、大学側は「一方的な改革攻勢が教育研究の基盤を揺るがす」と反発するという、まさに板挟みの状況。しかし、柴山大臣は、この対立を乗り越える鍵は**「対話と協働」にあると強調されています。大学が教育研究の成果を社会に公表し、その発展に寄与する責務を果たすためには、ガバナンスの透明性と説明責任が不可欠だというのが、大臣の基本的な考え方です。
文部科学省はこれまで、大学の自主的・自律的な改革を促してきましたが、グローバルな大学間競争の激化、そして少子高齢化やソサイエティー5.0**(超スマート社会)といった急激な環境変化を前に、新たな人材育成とイノベーション創出の基盤となる大学改革が、今こそ必要だと認識しています。この課題に応えるため、2019年2月に公表されたのが**「高等教育・研究改革イニシアティブ(柴山イニシアティブ)」です。これは、意欲あるすべての人に高等教育機関への進学機会を確保することと、成果に応じた手厚い支援と厳格な評価を行うガバナンス改革を一体的に進めるという、「車の両輪」となる重要な取り組みでしょう。先日成立した大学等の修学支援法や改正学校教育法も、その一端を担っています。
私見ですが、経済界と大学、双方の主張はそれぞれに理解できる部分があります。だからこそ、今後は立場の違いを超えて関係者が協働し、具体的な行動を起こすことが求められているのでしょう。2019年1月からは、大学と経団連**(一般社団法人 日本経済団体連合会)が同じ場で、将来の人材育成に必要な大学教育や企業の採用方法について議論を開始しました。この取り組みの中間まとめもすでに発表され、大変有意義なものとなっています。文科省も大学の取り組みの可視化と情報発信を応援し、社会の評価につながるよう後押ししていく方針です。
📚大学の現状と求められる努力:日本の研究力は本当に低下しているのか?
大臣は、現在の状況について「大学が努力しているのに可視化が足りない」面と「成果が出ていない」面、その両方があると指摘されています。特に、世界のトップ10%論文数という、優れた研究成果を示す指標で日本の順位が中国などの台頭により相対的に低下している現状は看過できません。企業と同様、大学にも人材の生産性向上が問われているのです。日本は初等・中等教育(小・中学校、高校)段階では世界をリードしているものの、大学卒業生や大学院生、研究者のパフォーマンスは他国に見劣りすることがあると言います。
一方で、奮闘している大学も存在するため、改正学校教育法に基づき、大学を適正に評価し、その経営努力も可視化できるように進めているところです。財務省からは、厳しい財政状況下でも大学予算に配慮しているのに「大学が努力不足」という批判があります。これに対し、柴山大臣は、成果に基づく配分(例えば、運営費交付金の再配分など)の方向性には理解を示しつつも、若手研究者の不安や劣悪な研究環境といった基盤の整備が非常に重要であると訴えています。私は、成果主義は大切ですが、研究者が安心して研究活動に専念できる環境があってこそ、真のイノベーションが生まれると強く信じています。
大学自身も、国立大学が「いつまでも国の一部門」という意識から脱却し、産学連携などの具体的取り組みを自律的に進めるための工夫が求められています。ただ、アメリカなどと比較して、日本は経済界から大学への投資や支援の仕組みが十分に育っていないという事情があります。このような他国と異なる状況で、国の補助金や交付金の削減が先行し、大学の体力や研究者のパフォーマンスに大きな影響を与えてしまった事実は否定できないでしょう。
💡迫る大学入試改革:共通テストへの懸念と文科省の対策
2020年度から導入が迫っている大学入試改革、特に大学入学共通テストでの民間英語検定試験の活用や記述式問題の導入については、入試に詳しい方々から疑問や不安の声が上がっていることも、柴山大臣は承知しています。特に公平性や公正性の確保が国会でも議論された点です。
英語の民間試験については、参加試験と各試験の得点対照表(CEFR:Common European Framework of Reference for Languages、外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠)の公表、高校のニーズ調査、そしてそれらを踏まえた検定料の低減や実施会場の確実な確保の要請といった対策が進められています。また、昨年12月には高校・大学の関係者と試験実施団体を構成員とする会議を設置し、率直な意見交換の場を設けているとのことです。大臣は、2020年度の円滑な実施に向けて、大学入試センターと緊密に連携しながら、着々と準備を進めていると力強く述べていました。
受験生が不安を感じていることについて、大臣は、これまでの2回の試行調査で明らかになった、数学の記述式問題の得点率の低さや、国語の記述式での自己採点と結果の不一致、採点の質のばらつきといった問題点をしっかりと補正していく方針を示しています。採点事業者間のばらつきがほとんどないレベルまで事前研修などで念入りにすり合わせを行うとのことで、スケジュール通りの実施に向けた準備に抜かりはないようです。共通一次試験や大学入試センター試験の流れを汲む共通テストは、大学ごとの多様性や受験生の多様性を重視しつつ、アドミッションポリシー(各大学が求める学生像とその受け入れ方針)に応じて有効活用できる**「共通のものさし」**としての意義が、依然として必要であるという考えです。
📣編集後記:高等教育政策の司令塔として真価が問われる
大学は、イノベーションを支える人材育成と新たな知の創造という重要な役割を果たさなければなりません。しかし、現状は経済界や財政当局からの厳しい批判に晒され、一部の大学関係者からは「文部科学省は本当に大学の味方なのか」という声さえ聞かれます。立場の異なる三者、すなわち大学・経済界・財政当局、それぞれの主張には説得力があり、複雑な問題であることを示唆しています。こうした四面楚歌(そか)の状況のなかで、文部科学省は高等教育政策の司令塔として、その真価が問われていると言えるでしょう。対立を乗り越え、大学が本来の力を発揮できる基盤を整えることができるか、今後の動向に注目が集まります。