2019年10月01日の消費税率引き上げがいよいよ目前に迫り、全国の街角では慌ただしく準備が進んでいます。東京都渋谷区に店を構える老舗写真店「フジタ・フォート」でも、店主の藤田和也さんが複雑な表情を浮かべながら、一枚のポスターを掲示していました。それは、政府が主導するキャッシュレス決済のポイント還元制度への参加を証明する、赤と白のデザインが目を引く告知ポスターです。
1964年の創業以来、この店では一貫して現金商売を貫いてきました。2代目である藤田さんも、本音を言えば店舗側が負担する決済手数料への抵抗感から、導入には消極的だったといいます。しかし、ここ数年は来店客から「カードは使えますか?」と尋ねられる機会が劇的に増えていました。そのたびに近隣のコンビニATMを案内することに、藤田さんは商売人としての心苦しさを感じていたようです。
こうした経営者の背中を強く押したのが、今回のポイント還元制度という決定打でした。これは、対象の店舗でキャッシュレス決済を利用すると、最大で5%分がポイントなどで戻ってくる仕組みです。政府が2019年度だけで約3,000億円という巨額の予算を投じるこの施策は、増税による消費の冷え込みを防ぎつつ、日本のキャッシュレス化を一気に加速させる「一石二鳥」の狙いがあります。
藤田さんは、この制度に参加しなければ集客の面で圧倒的に不利になると判断し、2019年08月にリクルートライフスタイルが提供する「エアペイ」を導入しました。これは、クレジットカードだけでなく「Apple Pay」などのスマートフォン決済にも一台で対応できる便利なシステムです。SNS上でも「ついに馴染みの個人店がキャッシュレスに対応した!」といった驚きと喜びの声が相次いでいます。
老舗の壁を越える利便性!商店街に広がるデジタル化の輪
この変化は、一店舗に留まらず地域全体に波及しています。近隣で「クリーニングシマダ」を営む島田一弘さんも、藤田さんの動きに触発された一人です。島田さんの最大の懸念は、共に店に立つ70代の母親の反応でした。「新しい機械を入れるなら、もう店には立たない」という強い拒絶反応に直面していたものの、時代の流れと集客の重要性を無視することはできませんでした。
実際に「フジタ・フォート」を訪れ、タブレット端末を操作する様子を確認した島田さんは、その直感的な操作性に驚いたといいます。これなら高齢の母親でもすぐに覚えられると確信し、ついに導入を決断しました。キャッシュレス決済とは、紙幣や硬貨を使わずに電子的に決済を行う仕組みを指しますが、操作の簡略化が進んだことで、これまでの心理的なハードルが劇的に下がりつつあるようです。
経済産業省の発表によると、2019年10月01日の時点でこの還元を受けられる店舗数は全国で約50万店に達する見込みです。一方で、駆け込みでの申請による審査の遅れや、不正利用への対策といった課題も山積みとなっており、制度が円滑にスタートできるかどうかについては、専門家の間でも意見が分かれています。現場の混乱を最小限に抑えられるかが、今後の焦点となるでしょう。
個人的な見解としては、この施策は単なる減税対策を超えた「日本の商習慣の転換点」になると考えています。手数料の負担という課題は残るものの、レジ締めの作業負担軽減やインバウンド需要の取り込みなど、長期的なメリットは計り知れません。慣れ親しんだ現金文化への愛着も大切ですが、この機会を商店街の活気を取り戻すための武器として、前向きに活用していく姿勢が求められています。