米国のアマゾン・ドット・コムが、日本の官公庁や病院といった公共機関を新たな主戦場として、本格的に開拓し始めていることが明らかになりました。千葉・幕張メッセで2019年6月12日から開催された年次イベント「AWSサミット東京2019」では、異例ともいえる内閣官房や経済産業省といった中央省庁の関係者が講演に招かれ、大きな注目を集めています。これは、アマゾンが従来得意としてきた製造業や流通業といった民間分野に加え、公共分野を次なる重要な収益の柱と位置付けていることの明確な表れでしょう。
アマゾングループでクラウドサービスを提供するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)日本法人の長崎忠雄社長は、基調講演で「世界では4000以上の公共機関が当社のクラウドを利用している。日本もこれから導入が加速する」と述べ、公共市場への強い意気込みを表明しています。この公共重視の姿勢は、会場全体の構成にも反映されており、政府機関が求めるセキュリティー水準をAWSのクラウドで実現するための資料を並べた、公共機関向け専用ブースが初めて設置されました。内閣官房や経済産業省に加え、名古屋大学医学部付属病院など、登壇者に公共機関の顔ぶれが例年になく目立ったことも、この機運の高まりを象徴しています。
アマゾンが公共分野に本腰を入れる最大の背景には、日本政府が2018年に宣言した「クラウド・バイ・デフォルト原則」があります。これは、官公庁がIT(情報技術)システムを新しく導入する際、クラウドの採用を最優先で検討するという基本方針のことです。従来、セキュリティー対策への懸念などから、多くの公共機関がクラウド導入に消極的でしたが、政府のこの強力な提唱が、導入への姿勢を「前向きに変える」(AWS日本法人の遠山仁啓氏)追い風になっているのは間違いありません。この動きは、まるで2012年に米国政府が同様の方針を打ち出した際、アマゾンが政府専用のクラウド環境を用意し、公共分野での採用を大きく進めた成功体験を、日本でも再現しようとするかのようにも見えますね。
特に医療分野については、導入の障壁を取り除く具体的なめどが立ったことが追い風となっています。今回のイベントで新たに公開されたのが、医療情報をパブリッククラウドで取り扱うために必要な措置をすべて組み込んだモデルプランです。これは、総務省、経済産業省、厚生労働省という3省が策定した、機密性の高い医療情報を扱う際の安全対策や指針である「3省3ガイドライン」に完全に準拠しています。これにより、医療機関がシステム構築の際に、個別に3省の指針を満たせるかどうかの複雑な検討をする手間が大幅に省けることになります。人工知能(AI)やビッグデータの活用を見据え、クラウドへの関心が高まる日本の医療機関にとって、このモデルプランの登場は、導入への大きな一歩となるでしょう。
このようなアマゾンの積極的な取り組みに対し、SNSでは「ついに国も本気でクラウド化に舵を切るのか」「AWSが公共ITインフラのデファクトスタンダードになる日も近いのでは」といった期待の声が上がっています。一方で、「個人情報や機密情報の扱いがどこまで守られるのか、民間企業への依存が高まることに不安もある」という慎重な意見も散見されます。しかし、日本政府の推進と、アマゾンが持つ世界的な実績、そして具体的な障壁を取り除くソリューションの提供が揃った今、この巨大な市場を開拓できるかは、アマゾンにとって日本市場の今後を占う非常に重要な局面にあると言えるでしょう。私は、この流れは日本の行政サービスを大きく変革し、国民生活の利便性を高めるためのターニングポイントになると期待しています。