情報通信分野の巨人、NTTグループの一角を占めるNTTコムウェアが、従来の常識を覆す大胆な開発体制の強化に乗り出しています。その核となるのが、市場の変化に迅速に対応しながらシステムを構築するアジャイル開発です。同社は2019年6月、アジャイル開発に特化した新たな拠点を開設するとともに、この開発手法を担う専門人材を2021年度までに現状の約5倍にあたる1,500人規模へと一気に拡大する計画を打ち出しました。
この動きの背景には、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する現代において、いかに早く新しいサービスを世に送り出すかが企業の競争優位性を決定づけるという認識があります。NTTコムウェアの黒岩真人副社長も、「NTTグループ全体で、いかに市場に早く出していくのかがポイントになっている」と、アジャイル開発体制の強化がグループ全体の戦略的課題であることを示唆しています。実際、同社は売上高に占めるアジャイル開発案件の割合を、現在の1〜3%から2022年度には10%まで引き上げるという、具体的な数値目標を設定しているのです。
では、そのアジャイル開発とはどのような手法なのでしょうか。これは「要件定義」「設計」「実装」「テスト」という一連の開発工程を小さなサイクルとして繰り返し(イテレーションと呼びます)、システムを段階的に作り上げていく開発手法を指します。顧客や市場からのフィードバックをサイクルごとに反映できるため、開発途中で仕様を柔軟に変更でき、最終的に市場のニーズに合致したシステムを短期間で完成させられるのが最大の特長といえるでしょう。
これに対し、従来のウォーターフォール型開発は、全ての要件を最初に厳密に定め、上流工程から下流工程へと水を流すように段階的に進めます。この手法は大規模システム開発で管理がしやすい反面、各工程に時間を要するため、開発完了時には市場環境が変わり、サービスが時代遅れになってしまうリスクを抱えやすいのです。市場がめまぐるしく変化する現代において、アジャイル開発は、まさにスピードと柔軟性を求める企業の「切り札」となり得ます。
開発のスピードと質を高める「コムウェアトゥースペース」の秘密
NTTコムウェアがアジャイル開発の加速に向けて新設した拠点が、東京・品川のオフィスビルの一角に設けられた約300平方メートルの専用スペース「コムウェアトゥースペース」です。ここでは、迅速なシステムやサービス開発のために、物理的な空間にも工夫が凝らされています。開発を担う6〜7名のエンジニアチームは、自由に動かせるホワイトボードの壁で区切られた、半開閉型の部屋で集中して作業を行います。サービスやシステムの試行錯誤を、1週間から2週間単位という短い期間で繰り返しながら、集中的に開発を進めていくのです。
特に注目すべきは、開発チームと、その生み出すサービスやシステムに最終的な責任を持つ「プロダクトオーナー」の配置です。開発チームが作業する半個室が7部屋設けられる一方、プロダクトオーナーは中央のオープンスペースに着席します。同社の担当者によると、これは「開発チームとは適度な距離感で自らの役割の仕事に集中してもらうため」であり、同時に「チーム間の相乗効果を生み出す」という狙いがあるとのことです。これは、集中力と、適度なコミュニケーションによる連携を両立させる、絶妙な空間設計といえるでしょう。
このアジャイル手法は、すでに具体的な成果を生み出しています。例えば、NTT西日本向けの、機器故障時の不具合エリアを地図上に表示するシステム開発プロジェクトでは、2週間の集中開発作業(イテレーション)を15回繰り返した結果、わずか3カ月という短期間でサービス開発を完了させた実績があります。これは、ウォーターフォール型では考えにくいスピード感です。NTTコムウェアは、このような開発をさらに加速させるため、2019年度後半からはアジャイル人材の認定制度の運用も開始し、人材の質と量の両面から強化を図る計画です。
NTTコムウェアのこの大胆な戦略は、SNS上でも大きな反響を呼んでいる様子です。「SIer(システムインテグレーター)大手も本格的にアジャイルに舵を切った」「エンジニアの働き方が大きく変わりそうだ」といった期待や関心の声が散見されます。特に、ウォーターフォール型が主流であった大企業が、従来の慣習を打ち破り、現場主導で進めるアジャイル開発に投資する姿勢は、日本のIT業界全体のデジタルトランスフォーメーションを牽引する力となるでしょう。私は、この「スピード開発へのシフト」こそが、日本のSIerが世界的な競争力を取り戻すための鍵になると確信しています。