エネルギー流通の大手である伊藤忠エネクスが、収益の柱を従来の燃料油販売から再生可能エネルギーなどの環境分野へと大きくシフトさせる戦略を打ち出しました。これは、利益の約半分をガソリンなどの燃料販売に依存してきた事業構造を根本的に変革し、「脱石油」へと進む社会のニーズに機敏に対応するための動きでしょう。石油製品の販売で広く知られる「カーエネクス」ブランドの給油所を国内で展開している同社ですが、新たな成長エンジンを確立する姿勢は、エネルギー業界の未来を象徴しているといっても過言ではありません。
具体的には、2019年内にメガソーラーを2カ所取得する計画を進めています。メガソーラーとは、大規模太陽光発電所のことを指し、広大な敷地を利用して大量の電力を生み出す施設です。2019年4月に中部エリアで既に1カ所を取得しており、年内にもう1カ所を追加で買い取る予定でいます。この取り組みによって、同社が保有する再生可能エネルギー発電所(メガソーラー、風力発電所、水力発電所)の合計出力は、これまでの3万8,000キロワットからさらに大きく拡大される見込みです。
また、環境に配慮した燃料事業も強化されており、2019年7月からは、これまで関西・中部地域で展開していた天然ガス由来の燃料「GTL(Gas to Liquids)」の販売を関東にも広げるとしています。GTLとは、天然ガスを化学的に液化することで製造される燃料で、硫黄や金属分などの不純物を含まないため、従来の石油燃料よりも環境負荷が低いという特長を持っています。特に建設機械や重機械向けの需要を取り込むことを目指しており、環境規制が厳しくなるなか、市場から大きな注目を集めるでしょう。
さらに、火力発電所から排出される石炭灰のリサイクル事業においても、新たな販路の開拓が進められています。従来、石炭灰は道路の路盤材(道路の基礎となる部分の材料)として利用されていましたが、今後は水を通さない遮水材やその他の工事用資材としても活用していく計画です。このように、同社は事業のあらゆる側面で環境配慮型への転換を図っているのです。
🌱 積極的な投資で未来を切り拓く事業戦略
この大胆な事業転換を支えるのが、積極的な設備投資です。2019年5月に発表された2019年度から2020年度までの2カ年の中期経営計画では、設備投資額を前の2年間と比べて約5割増の600億円に積み増すことが明らかにされました。その内訳として、新規事業の創出や海外市場の開拓には約2倍の400億円、電力事業の育成には200億円を投じる方針です。特に海外事業について、岡田賢二社長は「目玉は海外」と強調しており、企業向けの小型発電プラントなど、発展途上国で需要が伸びるとされる低圧の太陽光発電や小水力発電といった分野での事業機会を探る考えを示しています。
電力事業では、2018年には再生可能エネルギー発電への投資を目的とした法人を上場させており、向こう2年間も引き続き、再生エネ分野での新規案件の獲得を進めるとしています。国内のエネルギー需要が長期的に縮小すると予測されるなか、海外市場と再生可能エネルギー事業への集中投資は、同社にとって持続的な成長を実現するための最重要課題でしょう。
📈 絶好調の足元業績を活かした次の挑戦
直近の業績は非常に好調です。2019年3月期の連結売上高は国際会計基準で前の期比8%増の1兆2,442億円、純利益も5%増の115億円を達成しました。主力のガソリン販売において国内の安売り競争に歯止めがかかり、販売マージンが改善したことが大きく貢献し、なんと4期連続で過去最高益を更新しています。続く2020年3月期についても、純利益125億円とさらなる最高益の更新を見込んでいます。
しかしながら、純利益の半分以上を稼ぎ出すのが、ガソリン販売を中心とした「生活・産業エネルギー部門」であるため、長期的な需要縮小という課題を抱えています。現在の好調な業績は、いわば同社が新たな分野に挑戦するための貴重な「貯金」といえるのではないでしょうか。エネルギー産業を取り巻く環境が厳しさを増す中で、好調な足元の勢いを最大限に活かし、再生可能エネルギーなどの新分野の開拓にアクセルを踏み込むという判断は、非常に賢明であると私は考えます。この積極的な「環境シフト」は、市場での同社の存在感をさらに高めていくことでしょう。
この伊藤忠エネクスの発表に対し、SNSでは「環境に力を入れるのは時代の流れだ」「石油依存から脱却するのは素晴らしい」といった好意的な意見が多く見受けられました。特に、長年エネルギーインフラを支えてきた大手が再生可能エネルギーに本格参入することに対し、日本のエネルギー転換を加速させる期待の声も上がっています。同社の脱ガソリン戦略は、今後のエネルギー多様化の動きを占う試金石となるでしょう。