1988年6月19日は、日本の農業と食卓に大きな変化をもたらした日米間の重要な貿易交渉が事実上決着した記念すべき日となるでしょう。当時、アメリカ合衆国が日本に対して強く要求していた牛肉とオレンジの輸入自由化について、当時の佐藤隆農林水産大臣とアメリカ通商代表部(USTR)のヤイター代表が合意に至ったのです。この合意に基づき、翌日の6月20日に正式に文書が交わされ、焦点であった牛肉の輸入自由化は3年後から実施される運びとなりました。
この交渉の背景には、アメリカが抱えていた深刻な対日貿易赤字がありました。アメリカ側は、この赤字を削減するため、牛肉やオレンジといった農産品にかかる日本の輸入制限、具体的には輸入できる量の上限(輸入枠)の撤廃を強く求めていたのでございます。日本政府、特に国内農家への影響を懸念する農林水産省は最後まで抵抗を試みましたが、当時の竹下登総理大臣が、国内の畜産・柑橘農家への影響を和らげるための十分な対策を講じることを約束し、与党内の有力議員らを粘り強く説得したことで、最終的な合意へと漕ぎ着けました。
当時の日本の農業関係者の間では、「アメリカ産の安価な牛肉が市場に大量に入ってくれば、国内の畜産農家は大きな打撃を受け、廃業に追い込まれるのではないか」といった、将来に対する強い危機感や懸念の声が渦巻いていました。しかし、この合意をきっかけに、危機感を抱いた日本の畜産農家は、逆境をバネにするかのように、より品質の高い牛肉を生産するための努力を重ねていくことになるのです。この懸命な努力の結果、今や世界的に知られる高級ブランドとして成長した「和牛」が誕生し、その地位を確立していったのでございます。これは、単なる貿易の自由化という枠を超え、日本の農業が世界市場で戦うための競争力を高める、歴史的な転機になった出来事だと言えるでしょう。
この輸入自由化からおよそ30年が経過した2019年6月現在、牛肉は再び日米貿易交渉の主要な論点として浮上しています。アメリカが環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した影響により、アメリカ産牛肉には、TPPに加盟しているオーストラリアやカナダといった国々の牛肉よりも高い輸入関税がかけられています。この状況は、アメリカの畜産関係者にとって極めて不利なものであり、不公平な状況の早急な是正を求めています。これを受け、トランプ政権は日本に対し、この関税差を解消するための早期の解決を強く要求している最中であり、今後の交渉の行方には大きな注目が集まっています。
この歴史的な合意は、TwitterなどのSNSでは「日本の農業を変えた日」「和牛が世界に羽ばたくきっかけ」といった評価とともに、改めてその重要性を認識する声が多く見受けられます。また、「今後の日米貿易交渉で、日本はしっかりと国益を守れるのか」という懸念を示す意見もあり、国民の関心の高さが伺えるでしょう。この31年前の決断が、現在の、そして未来の日米関係や日本の食料安全保障にどのような影響を与え続けていくのか、私たち編集部も引き続き注目していく所存です。