2019年6月17日、米ニューヨーク連邦準備銀行が発表した6月の製造業景況指数(季節調整済み)は、市場に大きな衝撃を与えました。この指数は、ニューヨーク州などを含むこの地域の製造業の経済活動の現状を示す重要な指標ですが、その値は前月から26.4ポイントも急落し、マイナス8.6という2016年10月以来の低い水準を記録したのです。
特筆すべきは、この1カ月間での下げ幅が、統計開始以来「過去最大」となった点でしょう。この急激な景況感の悪化は、主に二つの貿易摩擦が企業活動に暗い影を落としていることの現れであると考えられます。一つは、長期化しているアメリカと中国の間の貿易協議の不透明感。もう一つは、不法移民問題を巡ってアメリカ政権がメキシコに対し関税引き上げをちらつかせたことによる影響です。
SNS上でもこのニュースはすぐに拡散され、「米中貿易戦争の影響が明確に出た」「いよいよ世界経済が危ないのでは」といった悲観的な意見が多く見受けられます。一方で、「関税措置見送りが決まる前のデータなので、来月は改善するはず」という冷静な分析をする声もあり、投資家たちの間で今後の動向に対する注目度が非常に高まっている状況です。
個別の項目を見ても、事態の深刻さが浮き彫りになっています。「新規受注」は前月比から21.7ポイントも下がりマイナス12.0となり、これも約3年ぶりの低水準となりました。新規受注とは、今後どれだけの注文が見込まれているかを示す数字であり、これが大きく落ち込むことは、将来の生産活動の縮小を示唆していると言えるでしょう。さらに「受注残」、つまりすでに受けているがまだ納品していない注文の量を示す指数も、17.9ポイント低下してマイナス15.8に沈んでおり、製造業の現場で業務が滞っている実態が伺えます。
こうした状況について、金融大手ゴールドマン・サックスのエコノミストチームは興味深い指摘をしています。彼らによると、今回の景況指数への回答の多くは、アメリカ政権がメキシコに対する関税措置を見送ることを決定する前に集計されたものであろう、という見解です。つまり、メキシコへの関税発動という懸念材料がまだ残っていた時期の企業の心理状態が、この極端な数字に反映されている可能性が高いということです。
私見ではありますが、今回のニューヨーク連銀製造業景況指数の急落は、貿易摩擦という政治的な要因がいかに企業の心理、ひいては実体経済に悪影響を及ぼすかを如実に示しています。政治が経済の足を引っ張っている状況であり、企業はコスト増や需要減を恐れて投資や生産を控える「様子見」の姿勢を強めているのでしょう。製造業は経済の基盤であり、この主要なセクターの景況感がここまで冷え込むと、やがて他の分野にも波及し、アメリカ経済全体を減速させる恐れがあるため、引き続き貿易交渉の行方を注意深く見守る必要がありそうです。