2019年6月17日の米国株式市場は、まるで嵐の前の静けさといった一日を過ごしました。この日、市場の予想を大きく下回る製造業に関する経済指標が公表されたにもかかわらず、金融市場はほとんど反応を示しませんでした。投資家の皆さんの関心は、明日から始まる米連邦公開市場委員会、通称FOMC(エフオーエムシー)へと一極集中しているようです。アメリカの中央銀行にあたるFRB(エフアールビー:連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長に対する期待と、裏切られるのではないかという不安が、この「動かない相場」の最大の要因だと考えられます。
実際、6月のニューヨーク連銀製造業景況指数は、過去最大の落ち込みを記録し、景気の良し悪しを示す境目であるゼロを下回るマイナス圏に沈みました。通常であれば、景気減速の懸念から安全な資産とされる米国債が買われ、長期金利は低下(債券価格は上昇)するはずです。しかし、長期金利の指標である米国10年債利回りは、この衝撃的な発表の直後にわずかに上昇(債券価格は下落)し、株価も限定的な反応にとどまりました。市場では、この指数が米政権によるメキシコへの関税引き上げ延期前の調査結果であり、参考にならないとの見方が語られていましたが、金融サービス会社ミラー・タバックのマシュー・マリー氏は、この市場の無反応に驚きを隠せませんでした。トレーダーの本音は「FOMC前にポジションを動かしたくない」という一点に尽きるでしょう。
市場の最大の注目点は、2019年6月19日のFOMC終了後に発表される声明文と、それに続くパウエルFRB議長の記者会見です。今回の会合では、FOMCメンバーが今後の政策金利の見通しを示す「ドットチャート」も公表されます。このドットチャートにおいて、3月時点では年内の金利据え置きを想定していたメンバーが多かったのに対し、現在の市場は年内に0.75%程度、つまり1回の利下げ幅を0.25%と仮定すれば年間3回もの利下げを織り込んでおり、この期待との間に大きな隔たりが存在しているのです。
パウエル議長がこの市場とのギャップをどのように埋めていくのかが、最大の焦点と言えます。6月の会合で利下げを決定するとの予想は少数派ですが、声明文から「(利上げを)忍耐強く様子見する」という文言を削除し、将来的な利下げに前向きな「ハト派」(金融緩和に積極的な姿勢)の色を強めるだろう、という見方が支配的になっています。ただし、金融引き締めを行う「タカ派」(インフレ抑制に積極的な姿勢)とは対照的に、ハト派的な姿勢を見せるにしても、明確に利下げに向けたシグナルを送るほど、アメリカ経済の状況は悪化していないのも現状です。米ゴールドマン・サックスは、「ハト派的な文言を用いつつも、利下げについて明確な言質は与えないだろう」と予想しているようです。
市場の期待に応える「満額回答」は得られるか
問題は、声明文の一部変更だけで、市場が期待するFRBからの「満額回答」が得られるのか、という点です。もし6月の会合で利下げを見送り、ドットチャートの下方修正のみを示した場合、年後半に景気減速リスクが高まっているというメッセージだけが投資家に伝わり、かえって不安を煽る可能性があります。そのため、米バンクオブアメリカ・メリルリンチなどが期待するように、パウエル議長が記者会見で「利下げの準備ができていると表明」し、投資家に安心感をもたらすというシナリオが、最も期待されている展開でしょう。
私の見解としては、パウエル議長は、市場の期待と経済の現状との間で、非常に難しい舵取りを迫られている状況だと感じています。特に、パウエル議長が就任して以来、FOMC後の株価は、2019年1月を除いてすべて前日比で下落しているというジンクスめいた事実があり、株式市場と議長の相性はあまり良くないと言えるでしょう。今回は、市場の利下げ期待が先行している状況での会合となるため、市場との対話の難易度はさらに高まっています。
もし、この市場との対話に失敗すれば、利下げを要求しているトランプ米大統領からの圧力はさらに強まることが予想されます。2019年6月17日の金融市場が示した静けさは、まさに「嵐の前の静けさ」であり、2019年6月18日からのFOMCの結果が、今後の金融市場の方向性を大きく左右するでしょう。
また、このニュースに対してSNSでは、「FRBは利下げを示唆するだけで十分、実際に動く必要はない」「議長の発言一つで相場が乱高下するのは困る」といった声や、トランプ大統領の利下げ圧力に対する批判的な意見も見受けられ、世界中の投資家が固唾をのんで結果を待っている様子が伺えました。